第十五話 少女と四人の皇子たち2
透けるように白い肌に、凛としている黒く澄んだ目。
束ねられた髪が、さらさらと精霊のおこす風になびいている。
顔のパーツは絶妙な位置に置かれ、端正としかいいようがない顔立ち。
体はスラリとしており、小柄ではあるものの、無駄な筋肉はついていない。
衣服は見慣れない金のボタンがついた黒ずくめの服だが、
いずれもこの国では最高級だと一目でわかる生地。
更に、異様な数の精霊を集める力――――――――。
全てが、異端の存在。圧倒されそうになるが、それを感じさせないように堂々と歩く。
とうとう十歩ほどの距離をおき、それと対峙する。
兄上が、穏やかに、それでいて有無を言わせぬ迫力をこめて、そいつに声をかけた。
右手はさり気なく腰にある剣に添えられている。
「・・・なぜ、お前はここに居る?」
「我は――――その幼き少年に召喚されたもの。責任は少年にあろうとも、我にはなかろう。
そなたたちの名は?」
少年特有の少し高い声で、朗々と淀みなく告げられる言葉の内容を理解するのに数秒かかり。
じろりと、リヴィと兄上は愚弟を見下ろした。
確かに、そいつの隣には魔法陣があり、紛うことなきヴァルの魔力によって描かれていた。
ヴァルは縮こまって何も言わない。
けれど――――――――。
俺は、何故かその少年から目を話せなかった。
・・・黒い髪。黒い瞳。どこかで、会った気がする。見覚えがあるような気がする。
ぼんやりと、眠っている記憶が目を覚ましていく。そう、まだ俺が小さい頃に。
俺は、たしかこの場所で、何かを――――――――?
「自分から名乗るのが、礼儀ではないのか?」
しかし、思い出しかけていた記憶の糸は、兄上の声によって途切れてしまった。
俺は、一体何を思い出していたんだ?
・・・分からない。
「勝手に呼び出し、何もいわずに警戒するのが、そなたたちの礼儀か?
それに、我は名前を知らずとも別に困らんが。」
自然体に見えて、全く隙のない構えのまま、少年は挑発するように笑う。
確かに、その通りである。言葉の操り方は、兄上と負けてはいない。
渋々、兄上が名乗る。
「・・・私は、このフェルベーナ王国の第一皇子、ラヴェル・フェルベーナだ。」
そこで少し言葉を切り、少年の様子を伺う。
少年は、眉さえ動かさず、無表情にこちらを見ているだけだった。
「私の右が、リヴェル・フェルベーナ。第二皇子だ。
その隣にいるのが、エヴィル・フェルベーナ。第三皇子。
お前を召喚したのが第四皇子、ヴァル・フェルベーナ。」
「我は、ミヤト・クサカベ。別の世界から来たものだ。」
不思議な響きを持つ名前だったが、セカンドネームがあるということは貴族なのだろうか。
まだ何かもやもやとしたまま俺は考えながら、ちらりと少年の方を見た。
それにしては、警戒こそしているが悪意やこびる様子は感じられない。
考えるように少年は俯いたあと、また兄上の方を油断なく睨み上げながら話を切り出した。
「・・・では、我を召喚した皇子と二人で話がしたい。
その後なら、尋問でも検査でもして牢屋入れるなり追い出すなりしたらいい。
まあ、我を殺そうとしても痛い目に合うだけだがな。」
決して問うことはせず、それに見合う条件をだしながらも警告する。
己の実力に自信があるからこその発言だろう。これには、兄上も舌を巻くしかないようだ。
「私が、弟とお前を二人きりにするとでも?」
「皇子には何も手は出さない。話がしたいだけだ。
それが嫌なら、強制的に二人だけになる場を作るが?」
・・・何も言えない。兄上の苦虫を噛み潰したような顔をみて、条件を飲むしかないとわかった。
一応、皇子としての教育は受けてきたつもりだ。だが、ここまで巧みな言葉遣いをする人間は見たことがない。
「・・・わかった。条件を飲もう。しかし、約束は守れ。」
兄上に代わって唐突に了承した俺を見て、わずかに少年が驚いたように目を丸くする。
兄上とリヴィも、困惑したように俺を見やるが、それを無視して、ヴァルを前に出した。
少年は、無言で頷き、俺たちは精霊の波に押されるようにして、二人から離された。
文章が短くてすいません。感想をもらえると嬉しいです!