第十一話 少年と召喚 2
最初に言っておこう。
ヴァルは無鉄砲である。
あの『坊ちゃん』よりも無鉄砲である。
更にひどいのは、後先なんて一ミクロたりとも考えてないことである。
それでも、この少年の行動が見たいというなら。
・・・止めはしませんけど?
再び本を持って、少年は魔法陣の真ん中に立った。
心臓の脈打つ音が、この静かな草原の中でやけに大きく感じる。
すぅっと息を吸い込んだヴァルは、澄んだ声で詠唱し始めた。
――――――――運命は、ゆっくりと。
「・・・我、ここに祈り、望むものなり。
今、世界に必要とされん者を。
この世に、祝福をもたらす者を。
精霊の息吹ある限り、汝と我は繋がり、時空を超えようともその繋がりは失われぬ。
全ての精霊の名と、女神フェルベーナの名において、汝と契約を交さん!」
――――――――紡がれ、始めた。
その次の瞬間。
突然、透き通るように青かった空から、強く白い光がヴァルの眼前に降り注いだ。
「わ・・・・っ!?」
思わず目を腕で覆い、うずくまる。
そのまま、十秒程固まっていたヴァルは、恐る恐る腕を外した。
(な、何も起こってないよね・・・?)
しかし、目の前にいる人をみて、ヴァルはその場に座り込んだ。
そこには。
無数の白い羽とともに、つややかな黒髪で、端正な顔立ちの少女が横たわっていた。
羽はその少女を守るように絶えずふわふわと宙を舞っている。
普段のヴァルなら、少女の周りに寄り添っている精霊たちを見逃さなかっただろう。
しかし――――――今は、それどころではなかった。
黒。それは、この国にはあるはずのない髪の色だった。
いや、この世界中を探しても、黒色の髪をした人間はいないだろう。
もし、あるとすれば。
――――それは、悪魔の色。
恐怖と混乱でそこから動けないヴァルをよそに。
少女の形をした悪魔は、瞳を開けた。
―――――――そう、黒く澄んだ瞳を。
その瞳が、ぼんやりとヴァルをとらえる。
その時には、すでにヴァルは恐怖で震える足をなんとか動かし、城へと一目散に駆け出していた。
その少女、宮都が見たのは、すでに小さくなったヴァルの姿だった。
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うん、長かった・・・。
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