第七章
湊望の葬儀は、それから二日後に行われた。
梅雨時にふさわしい、ぽつぽつと雨が降る日だった。
葬儀場に訪れた二年一組の生徒達は皆制服姿で、誰もが青ざめて俯いていた。
遺体の状態から顔も見られない彼女の棺の遠くに仰ぎ、生徒達はこそこそと情報を交換し合った。
「なんかひどい状態だったらしいよ」
「外に出て車に轢かれたんだろ?」
「いや、どうやら違うらしい……何でも、湊は喰われていたらしい」
士乃武は第一発見者の一人として事情を聞かれたが、彼自身もさっぱり分からず、どうやら警官の前で取り乱していたらしく、父親が会社を早退して迎えに来てくれた。
「嫌なら少し休んでも良いんだよ」
母が心配するが、士乃武は額に熱を感じながら無理に翌日学校へと、次の日に葬儀場へと足を運んだ。
美冬が心配だったのだ。
案の定、翌日美冬と真絢は学校を欠席し、心にダメージを負った士乃武も、同級生からの追求に疲れ、早退した。
だが葬儀には出席する。
それだけがあんな酷い目に遭った望へ出来る唯一のことだった。
「しーちゃん」
やはり葬儀に訪れていた美冬が、泣き腫らした目で彼に囁く。
「いったい何が起こったの? 私、ずっと考えていたけど……わからなくて」
士乃武も全く理解できなかった。
望には強い衝撃を受けた跡があったらしい。上履きのまま道路に出て車にひき逃げされたのではないか、との話しが聞こえるが、全く整合性が取れていない。
そもそも彼女は誰かに呼び出されていた。
スマホが完全に壊れていることから、そこに何者かの意志を想起させるが、警察はあくまで『学校外の出来事』にしたいようだ。
──だけど……。
5時限目をさぼったことについては叱られた士乃武だが、どこかにもやもやするところがあった。
何かを見逃していると言う自覚があるのだ。
誰かに呼び出された望、上履きで外を出歩いて車に轢かれた……おかしい。
なのに警察にその部分を強調しても、子ども扱いしてなだめるだけで、彼らの言葉が届いているか怪しかった。
「みんなの言っていることはきっと嘘だよ。だって状況がヘンすぎるもの」
美冬の怒りを湛えた瞳に、士乃武も頷いた。
「僕もそう思うよ。この事件には不自然、不可解が多すぎる……きっと、僕らも何か見落としているんだ」
「うん、だから……私たちでまた色々探そうよ」
「え?」
「きっと望の死には秘密がある。まだそれはどこかに残っていると思うんだ」
あるいは滅茶苦茶な意見だ。だが……
「ああ、みーちゃんがそう言うなら手伝うよ」
ふっと、美冬の頬が微かに緩む。
「やっと『みーちゃん』て言ってくれたね……うん、明日から調べよう」
「何の話してるんだ?」
士乃武と美冬が頷き合っているところに、一人の生徒が割り込む。
中村希代だ。
クラス人気№1の彼は、ふわりとした髪に手を置いて、士乃武たちを交互に見ている。
「湊さんについて少し調べようと思って」
正直に士乃武が答えると、彼は学校の女子たちを惹きつける綺麗な瞳を見張った。
「マジで、マジでそんなこと考えている?」
「ああ、僕らが第一発見者だから分かるけど、あれは普通の状態じゃなかった」
「それ言えるし」
いつの間にか中村の傍らに真絢がやって来ていた。
「なんかあたしもしっくりこない……大体、望っちには食べられた跡があった。もしかしてこの事件て……」
彼女が口ごもる先は士乃武にも分かる。
巷で起きている人肉食殺人事件についてだ。そう、もしかして望はその犯人に呼び出された可能性があるのだ。
だとしたら……。
「やっば!」中村は腕を抱いて震え上がる。
「マジでそんなんやろうとしている? キケンじゃね?」
「そうかもしれない」答えたのは美冬だ。
「でも、もしこれが『普通』の事件じゃなかったら、また犠牲者が出るのよ……それに私は望がどうしてあんな目に遭ったか知りたいの」
「そっかー」中村はきっちりと着ている制服の首もとを撫でる。
「なら俺もそれに混ざるよ……俺もシャクゼンとしないし」
ここで士乃武は気づいた。
中村は美冬が好きなのだ。
彼が彼女に向ける視線には、あまりに大きな熱がこもっていた。
「本当? ありがとう中村くん」
「っしゃ」と真絢が天井に両手を伸ばした。
「あたしらで犯人、見つけちゃおうぜ」
士乃武と美冬と中村と真絢。望の死の真相を探るメンツは揃った。