第十八章
闇の中、士乃武はただ呆然とアスファルトに座り続けていた。
ベアトリーチェが学校に入ってからどれくらい経ったか、数時間か、あるいは数分か、数秒である可能性もある。
それくらいその世界は朧だった。
時折馬車の馬がいななき、それで自分がまだそこに存在しているとだけは、判別できた。
「グワァァァァァ!」
どこかから咆吼が聞こえ、彼はびくりと身体を震わせる。
いつの間にか彼は荒い息遣いの中心にいた。
「な、なんだ?」
不穏な周囲の空気に立ち上がる士乃武だが、次の瞬間闇が破れた。
破れた、とした表現できなかった。
辺りから突然幾多の人影が駆けだして来て、彼を突き飛ばし学校の校庭に走っていく。
何人も何人も何人も……ただ、皆死体のような白い肌で、全てがグールだと分かった。
それらが恐ろしい数で集結しようとしていた。
突かれて倒れた拍子に落ちていた石で額を打ち、傷を作りながら、士乃武は顔を上げる。
また現れたグールが彼を無視して校庭へと向かっていく。
ぬらり、と額の傷から血が流れ、感触が頬まで到達する。
だが士乃武は気にしている暇がなかった。
闇から這い出したグールは百体はいただろう。
そんなに沢山の怪物が、この街に潜んでいたのだ。
ベアトリーチェが気になる。いくらなんでも百体に囲まれては一溜まりもないように思えた。
「ダイアナさん……これ、大丈夫ですか?」
グールの出現に微かに乱れた馬を制しながら、ダイアナは目を伏せる。
「わかりません……しかし、私はベアトリーチェ様から『そこにいなさい』とのオーダーを受けました。ここから動けません」
すっと彼女の瞳が士乃武のそれと絡まる。
「しかし、士乃武様は違います」
士乃武は初めて気づいたように額の血を拭って、決断した。