第十三章
「で、何を思いついたんだ?」
生徒の姿がめっきり少なくなった校内に入り、中村が問う。
「あのフェンスは特殊教室棟に面しているよね、そこに行こうよ」
「はあ? いや、てかそれは無理だろ」
中村は士乃武の考えを先回りしたようだ。
「いくらなんでもそれはニンゲンワザじゃない」
「とにかく見てみよう」
不思議そうな三人を率い、士乃武は廊下を歩き出す。
望の死体があった裏側に面する教室は、二階が化学室、三階は家庭科室、四階は生徒会室だった。
三人の何か言いたげな視線を受けながら、士乃武は化学室と家庭科室を調べる。
放課後故に、そこは使用されておらず調査は案外楽だった。
部活などに使われていなくて助かった。
そして四階生徒会室……。
「あんさー」ついに真絢が彼に声をかけた。
「もしかして学校が犯行現場、とか思ってないん? そりゃ無理だって」
確かに窓からは現場となった道路が見えるが、ここで望を殺したとしても、そこまで運ばなければならない。
ただ……。
「もし、ここで犯行が行われて、望の身体が外に投げられたら? 彼女の遺体には何かにぶつかった跡があったけど、それが落下したと時出来た傷だったら?」
「いや、おまっ」つかつかと中村が歩いて窓に近づき外を指す。
「あんなあ、それは無理って奴だ。ほら見ろ、フェンスまで十メートル以上あるぞ、それをぽいっと空き缶みたいに……人間の身体は意外と重いんだぞ」
「分かっている」……士乃武が思い出すのはアンだ。
彼女は士乃武がどうやってもびくともしなかった石のガーゴイル像を、容易く持ち上げた。
『世の中には出来ないと思うことを簡単に成してしまう者がいます』……アンの言葉だが、もし今回の犯人が、
『成してしまえる』者だったら。
士乃武は家庭科室の窓を子細に調べた。
「いや、これ無駄っしょ」
「ううん、中村君、しーちゃんを信じてみよう」
呆れる中村だが、美冬が入ってくれた。
そして四階、生徒会室。
今日は生徒会の集まりはないらしく、無人の教室に簡単に入れた。
士乃武は置いてけぼりの三人に構わず、窓際で屈む。
「あ!」声を出した。
見つけたのだ。小さな手がかりを。
「なした?」真絢が彼の傍らに屈み、
「うっ」と声を上げた。
血だ。何滴かの血が望の遺体があった道路に面する窓に残っていたのだ。
ぞんざいに拭かれた跡もある。
「まじっ!」中村もしゃがんで確認し、驚愕する。
「うっわ、これって……」彼の顔色が変わり、血痕をスマホでかしゃりと撮る。
「見て! これっ!」
士乃武に言われて窓の周辺を探っていた美冬が声を上げる。
血がべったりとついていた。しかもよく見ると指の跡まである。
「……ここから投げたって? マジ……?」
証拠に触れないように中村が窓から身を乗り出す。
確かにかなりフェンスより遠い、だが『出来る者がいるとしたら』現場はここだ。
「一応警察に知らせようよ」
美冬が提案し、「ああ、だな」と中村も大きく頷く。
「あれ? みんな、何しているんだ?」
そんな彼らの背後に誰かが声をかけた。
士乃武は緊張して固くなる。
河野保だったのだ。