神のお告げ
誕生日の夜、私は不思議な夢を見た。
光の中に、羽の生えたうさぎがぷかぷか浮いているのである。そう、まさしく羽を全く活用せず空中に浮かんでいるといった様相で。
(その羽の意味はなんなのよ…変なうさぎね…。)
『変とは何だ!変とは!!このプリチーな私をつかまえて失礼だろう。』
(無駄にイケボだなぁ…。不思議な夢ね。)
『無駄というのは失意だが、この声を褒められるのは嫌いではないぞ。もっと褒めてもよい!』
そういって、うさぎは得意そうに腕を組み、少し身体を反らす。
『ちなみに、これは夢であって夢でない。目を開けてみるとよい。』
(確かにさっきから会話ができているような…。)
そう思って、私が目をこじ開けるように覚醒すると、目の前には先ほど見た通り羽の生えたうさぎが浮かんでいた。私が不意に天井絵画の模様を思い出してしまうような、描かれていたうさぎにそっくりな、なんとも珍妙なうさぎだ。
『神に向かって珍妙とは失礼だと常々思ってはいるが、異世界の魂を持つ者はいつも同じような反応をするからな。まあ許してやらんこともない。』
「…はあ、ありがとうございます?…おはようございます、ですかしら?
さほどから私の思考を読んでいらっしゃるようですが、あなたは一体どなたなのですか?」
『ああ。おはよう。私は”神様"だ!名前はべるぜぶぶ!気軽にべる様とでも読んでくれ!
率直な感想を言ってくれてもよいのだぞ。かわいいとか、かわいいとか、かわいいとか!』
聞いてもいないのに、名前まで教えてくれるなんて、神様なのに偉ぶっていないのね、と思いつつ、かわいいという感想を求めていることを無視して、率直に気になったところに突っ込んでみることにした。
「分かりましたわ。べる様。なんだか地獄にいらっしゃりそうな感覚のお名前ですわね。」
『そうだろう、そうだろう。アンバランスさを売りにしておる。後光の中に見えるプリチーな見た目に、低めのよい声、気さくな話し方!天に住んでいるにしては似つかわしくない名前!素晴らしいだろう。料理でもなんでも、様々な要素が複雑に絡み合えば素晴らしいものができるものだ。まあ、偉ぶっていないというのは、まあ、つまり、そういうことだ。』
(どういうことだ…。)
偉ぶっていないといいながら、なぜかべる様は大変偉そうに回答される。私は、そんなべる様に胡乱な目を向けてしまう。
『わからん奴だなぁ。神も、いうて客商売みたいなものだからな…。信仰が薄れないためにはセールスポイントが必要、ということだよ。』
べる様は、どこか遠い目をしてそうおっしゃった。…神様もなんだかいろいろ大変らしい。
心配そうにべる様を見つめていると、べる様はハッと何かを思い出したようなモーションをとった後、気を取り直すように小さな頭をふり、話し始めた。
『今日は、君に”お告げ”を与えにきたのだよ。いわゆる、この世界への適合条件というものを教えにきたのだ!!聞きたいだろう?知りたいだろう?』
べる様は1匹(神だというなら1柱と数えるべきか?)で、どうしよっかなぁっといった風に八の字に飛びまわっている。さしずめミツバチダンスのように…。
正直、とても知りたい。しかし、このノリには乗りたくない。私は努めて冷静にべる様に尋ねた。
「それは、べる様的には、教えていかずに帰られても構わないものですの?」
『仕方ないなぁ!!!そんなに教えて欲しいならば教えてやろう!』
なんだか強引に乗り切られた。べる様のノリについていく気がないことに気づかれたらしい。
「はい。お願いしますわ。私の寿命にかかわる条件ですもの。」
『寿命にかかわる、というのも少し異なっているがな…。
適合条件は、異世界で生きていたときの望みを元に定められている。この条件は、いわば異世界の神との契約のようなもので、異世界ではなくこの世界で生きることが、魂が本来持っていた希望を叶え幸せに暮らすことに繋がる場合といえなければならないという条件の下で結ばれている。したがって、君の適合条件は、この私であっても変更することはできないことは、覚えておいてくれ。
その上で君の適合条件は、”幸せな恋をすること”だ。』
「私は生きることを望んでおりますが、幸せな恋なんて私だけの力ではどうにもできないのではないですか?だって、恋を成就させるためには、相手にも私に恋をしていただかなければなりませんわ。」
『そのようだな。しかし、君の前世で君の持つ魂は、単に生きるのではなく”幸せな恋をして”生きることを望んでいたようだ。だから、君はこの適合条件を満たさなければ、しかるべきときに、元いた世界の輪廻の輪に戻らなければならない。』
「適合条件が満たされたかどうかは、いつわかるのですか?なんだか曖昧な条件のような気もしますし…。もう少し詳しく教えていただきたいのですけれど。」
『それらもまた、しかるべきときにわかるだろう。ともかく、君の魂がこの世界に適合しないうちは、私が君に干渉できる範囲もごくわずかな部分に限定されている。
君が、もしも本当にこの世界で生きていきたいと望むならば、適合条件を満たす努力が必要だろう。』
べる様がはそういった後、
『あー、あー、困りましたお嬢様、もうお時間のようでーす。』
と妙に棒読みで告げ、点滅し始めた。
「え、っちょと待って…」
制止の言葉を言い終わらないうちに、私は強い光に包まれた。
そして気がつくと、私は今目覚めたかのような体制でベッドに横たわっていた。あたりもすっかり朝のようだ。
「恋って、努力してするものなのかしら…。」
小さくそうつぶやいて、私は一抹の不安を覚えたが、やるしかないと思い直し、侍女を呼ぶためにおもむろに呼び鈴に手を伸ばした。
羽の生えた白いうさぎと、羽の生えた黒いうさぎがなにやら揉めているようだ。
「べる坊、また余計なことを言おうとしたでしょ。呼び戻さなかったらどうなっていたか。」
白いうさぎはそっぽを向く。
「別に、なにも言うつもりはなかったさ。君が堅すぎるんだ。」
「そうかな?今回は、私たちが二人で選んだ魂だ。行く末を見守ろうって相談して決めたじゃないか。なのにべる坊ときたら…。だいたい、君は前のときだって…」
小言が長くなりそうな気配を感じて、白いうさぎはその両前足で自分の長い耳を押さえるのだった。