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アリッサ・マグノリア

アリッサは、公爵家の長女として厳しくも優しい両親のもと、自分でいうのもなんだが、健康に、いい子に育っていた(なんとなく、是非善悪の感覚がわかるのも大きいけど…)。

兄のジルベルトとも、良好な関係を築けていると思う。主に、優しいジルベルトの行動や笑顔に私が癒されており、兄を令嬢教育の厳しさの支えにしているという、兄妹というには不思議な関係になっていることは否めないが…。

なぜなら、この兄、とてつもなく推せるのである。妹として生活する中で、公爵家の兄に対する教育が私に対する以上に厳しいことがよくわかる。

それでも、弱音も吐かず、その歳には自分ができたことができない不出来な妹には、励ましの言葉までかけてくれるである。

(しかも…!

普段は無表情で、整いすぎた顔が逆に尖った冷たさを感じることすらあるほどなのに、アリッサの前では甘くとろけるような笑い方をするのだ!

ファンサがよすぎる…と私がよく悶絶するため、兄を少し戸惑わせてしまっていることには、申し訳なく思っています…。ええ…。)


そうして、穏やかな日々を過ごしていた時だった。

それは、アリッサ・マグノリアとして生を受け、自我が芽生えてから約9年の月日が経った日、私の10歳の誕生日のこと。

その日の朝は、お父様と、私が赤子の頃に過ごした部屋で天井を見上げていた。

この世界の公爵家から伯爵家までの貴族家庭では、赤子の自我が芽生えるまでは専用の部屋で、子供の養育を行うという決まりがあるのだ。この決まりは、決して破ってはいけない伝統的なもののようで、私もこれにのっとって、自我が芽生えたあの日まで、代々使われてきた子供部屋で生活していのだが、今朝は父様にこの部屋に呼び出され、今に至る。


「アリッサ。天井絵が見えるかい?」

不意に、父様に声をかけられた。

私は、羽の生えたうさぎが、ラッパを吹いているというなんとも珍妙な、例の天井絵画を見上げて、微妙な気持ちになりながら答えた。

「ええ。」

「…どんな絵柄か、わかるかな?父様に教えてくれるかい?できれば、感想も教えて欲しいな。」

「そうですね…。羽の生えたうさぎが、ラッパを吹いていますわ。正直、珍妙な絵だと思います。どうしてこんな絵柄なのかずっと疑問でしたの。」


しばらくの沈黙が落ちる。

父様は、「そうか…」と呟いて、また天井を見つめてしまった。

(私、なにかおかしなことを言ったかしら…。見たままを答えたのだけど…。)


「父様?どうかされたのですか?私、なにか酷いことをいってしまったのでしょうか…?」

「いや、そういうことじゃないんだが…。アリッサ、君に話さなければならないことがあるんだ。」


父様は私の前にしゃがみ込み、私の目を見てそういった後、深刻な顔をしたまま話を続けた。


「いいにくいことをきくが、君には、他の世界で生きた記憶があるのではないか?」


私は、戸惑ってしまい、すぐに答えを返すことができない。記憶というか、認識がある…程度なのだけれど、などと考えていると、私の反応を見て、父様は固く一度目を閉じた後、深く息を吐き出した。


「いいかい。この世界には度々、他の世界で生きた記憶や認識を持った魂を宿した子供が生まれるんだ。

その子供は、必ず公爵家、侯爵家、伯爵家のいずれかの家門に生まれる。それは、神が別世界で生きた純粋な魂を掬い上げ、幸せにするために魂を別世界から連れてきているためだといわれている。そして、異世界の魂をもった者が生まれるのは、神の望みを叶えるにふさわしい家門として選ばれた証であり、誉であるとも言われている。

君は、この天井に、羽の生えたうさぎが、ラッパを吹いている絵柄が書かれているといった。この天井の絵柄は、神から与えられた、異世界の魂を持った者しか見ることができない特別な方法で描かれた決められた絵柄なんだ。

この絵について、羽の生えたうさぎが、ラッパを吹いている絵柄と答え、さらにその絵を珍妙といった君は、いわゆる転生者ということになる。

私には、羽の生えたうさぎが、ラッパを吹いている絵柄がどのようなものか想像もできなければ、その絵の感想をいうこともできない。なぜなら、私には一般的な大理石の天井にしか見えないからね。」


私は、この珍味な絵が認識されていない(できない)ことにも、この世界で転生者の存在が知られていることにもひどく驚いた。そして、父様から、この世界の転生者にまつわる理について知ることになった。


曰く、異世界から来た魂はこの世界に適合しなければ、この世界では長く生きられず、元の世界の輪廻の輪に還ることになる。

この世界で生き続けるためには、魂がこの世界に適合する必要があり、世界に適合するためにはその魂ごとの条件を満たす必要がある、と。


魂ごとの条件は、本人に対して、10歳から12歳までの間に神からお告げがあるらしい。お告げの方法や内容、適合条件については、口外が許されないため、知られていないのだとか。


「アリッサ、君は私にとって人生の喜びだ。君が長くこの世界に止まってくることを、私たち家族は願っているよ。」

父様にそう言われて、その場はお開きとなった。


その後、家族で私の誕生日のお祝いをした。

この世界では、高位貴族といえども記念日のお祝いは家族の中でささやかに行うことになっている。

なんでも、この世界の創造神は、人同士の繋がりを重んじており寂しさは死に繋がるものとの教えを残しているとか。このため、記念日などは盛大なお祝いは控え家族での密な時間をつくることで、個人が寂しさを感じないようにすることが重要とされている。


誕生日会では、普段は喜ぶケーキや豪華な食事をみても、どこか私の元気がないようにみえたらしく、ジルベルトが心配して声をかけてくれた。

私が異世界からきた魂を持って生まれてきたことについては、父様から、母様と兄様にだけ伝えられているらしい。


「…元気がないようだけれど、大丈夫かい?」

「ジル兄様…。私、もといた場所へ戻らなければならないのでしょうか…。」

すると、兄様は安心させるように私の手を強く握ってくれた。

「大丈夫だ。アリがそれを望まないのであれば、私たちも適合条件を満たせるように協力する。君は、私にとってかけがえのない大事な人だから。なにがあっても、私はアリの味方だよ。」

優しい言葉に、胸がいっぱいになった。

同時に、私はこの世界で生きていきたいと、兄様たちのそばにいたいと、そう、強く願った。


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