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地球への手土産

作者: 村崎羯諦

「今日の議題は、惑星間交流樹立のために初めて訪れる地球という惑星へ持っていく手土産についてだ。地球と友好関係を結ぶためには、どのような手土産を持っていけばいいかをみんなで考えよう」


 とある惑星の会議室。地球へ派遣予定の宇宙人たちが、地球へ持っていく手土産について議論を交わしていた。手土産に関するアイデアはないか? ファシリテーターの問いかけに一人の宇宙人が手をあげ、発言する。


「『金』はいかがでしょう? どの惑星でも頻繁に使用されている便利な素材ですから、たくさんあって困るものではないでしょう。地球では金は希少なものだという報告もありますし、なにより他の惑星から贈られて嬉しかったものランキングで毎年一位の定番手土産です」

「うーん。確かに金は贈り物としては無難だが、ちょっとベタすぎないか? もっと意外性のある手土産を贈って、センスがあると思ってもらいたいんだ」

「我々のことを知ってもらうという意味で、我が惑星史を地球語に翻訳した書物なんていかがでしょう?」

「それはコストが高すぎる。今地球語の解析もある程度進んではいるが、細かいニュアンスやスラングまで完全に把握できるとは限らない。もし書物の中にあちらにとって失礼な言葉が含まれていたとしたら、友好な関係にヒビが入ってしまうかもしれない」

「文明度の高い惑星では、物よりも体験を重視する傾向にあると言われています。そこで、我々の最新技術を使用して、地球に住む全ての人間たちに快楽を一時間ほど提供するのはどうでしょう?」

「物ではなく体験を贈るというのは素晴らしいアイデアだ。ただ、提案してもらった快楽については反対だな。生命体によっては健康に害を及ぼす可能性があるという最新の論文が出ているし、万が一のことを考えるとやめておきたい」


 様々なアイデアが出されるが、なかなかこれといったものが出てこない。皆が頭を悩ませる中、端っこの席に座っていた一人がおずおずと手をあげ、発言する。


「やはり手土産というのは相手が欲しいと思ったものにすべきなのではないでしょうか? 先ほどから我々の価値観で手土産を考えていますが、惑星が違えば価値観も違ってくるはずです。人間が好き好むもの、好き好んでやっていそうなものが何かを考える必要があるのでは?」


 その発言に他の参加者がなるほどと頷く。そして、ファシリテーターから、その観点で言うとどのような手土産がいいと思うかと尋ねられた彼はさらに言葉を続けた。


「調査報告書に載っている人間の歴史や行動を私なりに読み込んでみたんです。すると、ほぼ全ての国、人種で何度も何度も繰り返されているものを見つけました。もちろん私たちからしたらよくわかりませんが……これだけ繰り返しやっているのであればきっと好きだということでしょう」


 そして、彼は手土産の候補を口にする。参加者全員がそのアイデアを称賛し、最終的に彼の提案が採択されることになったのだった。






*****






「他の惑星からやってきたという宇宙人が大統領にお会いしたいと言っています!」


 ホワイトハウス。大統領は秘書の報告に耳を疑った。そして、秘書に連れられて部屋に入ってきた、明らかに人間とは見た目が異なる生命体たちを見て、今度は目を疑った。


「お会いできて光栄です、大統領。我々はゼファリウス銀河のエリオンドラという惑星からやってきたものです。我々はあなた方がいるこの惑星と通商を行うためにやってきました」


 事前の綿密な調査により、宇宙人たちの英語や所作は完璧なものになっていた。大統領はそれらを見て、彼らが地球に対して害を与えようとしているわけではないということを瞬時に理解した。大統領と宇宙人はそれから言葉を交わし、それから親交を示すための握手をかわす。そして、具体的な惑星間交流の話をしましょうと大統領が着席を促したタイミングで、宇宙人は思い出したように立ち止まり、大統領に問いかける。


「そういえば、我々の手土産は喜んでいただけましたでしょうか?」

「手土産ですか?」

「ええ、こうして地球へ初めて訪れるにあたって、あなた方が喜んでくれるような手土産をみなで考えたのです。その手土産はすでに地球へ届けてもらっているはずです」

「それはお心遣いありがとうございます。ただ申し訳ないのですが、その贈り物をこちらでは把握できていないのですが、具体的にどのようなものでしょう?」


 大統領が宇宙人に尋ねるタイミングで、大統領室に秘書がまた飛び込んでくる。


「大統領! つい先ほど、A国が隣国のB国への軍事侵攻を開始しました! 一ヶ月前のC国、D国に続いて、今年に入ってもう三度目の軍事侵攻です!」


 大統領は秘書の報告に驚きの表情を浮かべる。しかし、宇宙人たちは秘書の報告を聞き、なぜか満足げな表情を浮かべた。不審に思う大統領に向け、宇宙人たちは親しみのこもった声で説明するのだった。


「我々が地球へやってくる前に、あなた方が好きなものについて入念な調査を行いました。そして、その調査の結果、我々はあなた方への手土産として、戦争のタネを送らせていただいたんです。喜んでいただけましたよね? なにせ、あなた方人間は、戦争というものが大好きでいらっしゃるようですから」

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