アンデッド、面接
「待て、二人共」
殺気立つ男女のお供を制したのは、オリガ様と呼ばれた女神本人だった。
「アンデッドよ、一つ聞こう」
「はい、何でございましょう?」
「其方は何故、わらわに仕えたいと申すのじゃ?わらわは其方を知らぬ。其方はわらわを知っておるのか?」
「いえ、全く」
女神の眉が、訝しげに寄せられる。
「全く知らぬ相手に忠誠を誓った、と?」
「いやぁ、誓いたくもなりますって。なんかこう、なんというかこう…言語化不可能だけど」
うっかり口元がニヤけて、両側の縫い目が緩んでしまった。
閉じ直すの大変なのに。
「ええい、アンデッド!その気味の悪い顔で、オリガ様に近寄るな!」
男のお供が、ワタシに剣を突きつける。
「失礼なこと言うんじゃないよ、好きでこんな顔になったんじゃないんだから」
口横にある糸の端っこを引っ張って整えながら、ワタシは男の剣を肘で逸らした。
「何故わらわはこうも…」
「致し方ありませんよぉ、オリガ様はこういう星の下にお生まれになったんです」
一方、女神は女のお供と小声で話し込んでおられた。
何のことだかよく分からんが、生まれながらに何らかの運命を背負っているということか。
これはますますお仕えして、少しでも助けになって差し上げねば。
「麗しき女神よ」
男の脇をすり抜け、ワタシは女神の御前に跪いた。
「ワタシは魔法・武術の両方に心得がございます。あと姿を消すことも出来ますので、大っぴらに人を連れ歩けない場合も役に立てるかと!貴女様、かなり身分の高い方ですよね?ワタシみたいなレア魔物を従えてると、何かしらのステータスになったりしませんかね⁉︎」
「待て、落ち着かぬか」
おっと、一気に喋りすぎた。
「わらわが其方に救われたのは事実じゃ。しかし、だからと言って完全に信用するわけにはいかぬ。それに人間が珍しい魔物を連れ歩いていたとしても、それが評価の向上には繋がらぬでな」
「えっ」
「じゃが、其方の力は確かに有益かもしれぬ。よかろう、父上達に相談してみるとしよう」
「マジですか‼︎⁉︎」
男のお供が、クワッと目を見開いて女神を見る。
「オリガ様‼︎なりませぬぞ‼︎」
「ヴィーゼル、わらわの体質は知っておろう。それに…何かあれば、この手で責任は取る」
女のお供は、険しかった表情を少し緩めて頷いた。
「私も、ちゃーんと見張っておきますねぇ。ご心配なく、団長殿!」
「む、むぅ…」
女神がワタシに向き直った。
「其方、名は?」
「ワタシに名はありません。"呪怨之墓守"という種族名のみでございます、美しき女神よ」
「わらわを女神と呼ぶのは止めよ。わらわはオリガ。このフォンテール王国第一王女、オリガ・フォンテールじゃ」
「オリガ…オリガ姫様。何と気高い響きでしょうか…!」
いかん、尊すぎて昇天しそう。
「…ごほん。ひとまず其方のことは、グレイと呼ぶことにしよう」
…こうしてワタシは、念願だった主君を見つけることができたのであった。