アンデッド、回想
ふと気付いた時には、ワタシはアンデッドとして存在していた。
種名は"呪怨之墓守"。
死霊の変異体、その中でも特にレアな魔物…らしい。
過去にワタシの全体を見た冒険者が、そう叫んでいた。
どんなことをする魔物なのかは知らない。
正直、知ったことじゃない。
人間への攻撃衝動なんて、ワタシはハナから持ち合わせていなかった。
それは何故か?
ワタシは多分、人間だったことがあるからだ。
断定は出来ないし、明確な記憶があるわけでもない。
ただ何となく人間の考え方や常識を理解したり知っていたりするので、多分そうだったのだろう。
それに気づいてからは、ワタシは勝手に人間に同族感を抱くようになった。
なんかこう、上手いこと仲良くなって道案内役とかできたらなと思っていた。
だが、現実はそう上手くいかない。
今のワタシはアンデッド。
ワタシを見た人間は皆、逃げるか攻撃してくるかの二択だった。
そこで、友好関係を築くのは発生後10年目くらいで諦めた。
かと言って何もしないのはムズムズするので、必要最低限の目立たない姿で手助けすることにした。
利き腕だけを顕現させ、残りの身体は隠しておく。
こうすればそんなに見つからないし、手先に集中できるから『うっかり状態異常かけちゃった☆』なんて事故も起こりづらい(若かりし頃のワタシは、よく自分の能力を暴発させていたのである)。
ただ、すんごく寂しい。
一度でも同族感を持ってしまった種族に、極最低限の接触しかできないのだ。
周りを見れば、あうあう言いながら徘徊しているアンデッド類は山程いる。
いや、どうやってコイツらで孤独を満たせっちゅうんじゃい。
あーあ、どこかにワタシを受け入れてくれそうな人間はいないかな?
そんなお方に出会えたら、一生をかけて神(もしくは女神)と崇め奉るのに…。
そう考えるようになってから、早20年。
ワタシが地下通路の一層目でうたた寝していた時、最下層にここ数年間引きこもっていた悪霊が唐突に大規模な魔法を使用したのだ。
空気中の水分に干渉する魔法で、それを利用して地上に雨雲を発生させたらしい。
今まで何が起こっても無関心だったアイツが、一体何故?
ワタシは悪霊が地上に上がっていった後、こっそりと様子を見に行った。
大雨の中で、人間の一団がアンデッド達と交戦していた。
人間達はかなり統率の取れた集まりらしく、大勢のアンデッドに囲まれていてもそこまで苦戦していないようだった。
ワタシが感心していると、突然雨音を貫く声が聞こえた。
「来るが良い、死人共!わらわを討ち取ってみせよ‼︎」
わぁ綺麗な声。
その声の主を探し、見つけたワタシは思わず息を飲んだ。
光って見える、銀色の髪。
雪のように真っ白な肌。
桜色の唇に、宝石のような青い瞳。
一言で言うと、とんでもない美少女。
着ている衣装を見るに、かなり高貴な身分の乙女なんだろう。
いや、身分とかどうでもいい。
女神、おったわ。
彼女こそワタシが全身全霊で崇め、お仕えする方なのだ…そのはずだ!
なんの直感なのかは知らないが、ワタシは一瞬でそう悟った。
…というわけで、その後ワタシは顔見知りだった悪霊を覚えたての上位魔法で瞬殺。
「麗しき女神よ、ワタシの忠誠を御身に!」
平和になった曇天の下、そう宣言したワタシへの応えはというと…
「オリガ様、お下がりください!」
「アンデッド、貴様‼︎オリガ様には指一本触れさせん‼︎」
…お供の人間達からの、剥き出しの敵意でしたとさ。