アンデッド、奮起
日も暮れた頃、ワタシは王都に降り立った。
手首だけの姿で翼竜の横腹にしがみついてきたので、握力が限界に近い。
「あてて…」
空中に浮いたまま、痛む掌をバタバタと振る。
周りに居た騎士達が、ワタシの動きにギョッとして後ずさっていた。
「アンデッド、貴様!妙な動きをするな!」
騎士団長が剣に手を掛けながら怒鳴る。
「仕方ないだろ、何時間も指先の力だけで耐えてたんだから!んなこと言うなら、乗っけてくれたってよかったじゃんか!」
「貴様の安全性がまだ証明されたわけではないのだ!むしろ、空路への同行を許可してやっただけ有り難く思え!」
「ワタシに人権は無いのか⁈」
年甲斐もなくムキになっていると、コホンと神々しい響きの咳払いが聞こえた。
姫様である。
「2人共、落ち着かぬか。わらわ達は早急に、父上達に状況を報告せねばならぬのじゃぞ」
「ゴメンナサイ」
「申し訳御座いません…」
そうだ、遊んでいる場合ではない。
ここで王様方に上手く認められなければ、女神にお仕えするなど夢のまた夢。
人生一番の大勝負なのだ(既に死んでいるが)。
「よし…」
ワタシは本来の姿に変化した。
一気に視点が高くなり、目の前の姫様を見下ろす形となる。
この角度から見る姫様も中々…とか不敬なことを考えながら、身体を折って恭しく一礼する。
「麗しき姫様。ワタシは必ずや王の許しを得、貴女様にこの身と忠誠を捧げましょう。ですが、もしそれが叶わなかった暁には…どうぞ貴女様ご自身の手で、ワタシをこの世から葬り去って下さいませ」
姫様は目を見張った。
魔導士さんに至っては、うっかり「重いですねぇ」と呟いている。
「なにゆえ、そのような極端なことを申すのじゃ」
「いやぁ、正直ワタシも孤独に飽きておりまして。変に自我を持ってしまったもんですから…」
アンデッドしかいない場所では、半端な知能など持て余すに決まっている。
一目惚れしたお方に仕えられれば最高だが、それが駄目ならいっそのこと…。
姫様は少し何かを考えていたが、すぐに小さく溜息を吐いた。
「…それに関しては、後ほど決めよう。じゃが、前向きには検討しておくぞ」
「ありがたき幸せ」
女神に介錯してもらえるなど、至上の喜びに違いない。
…おっと、まだそうなるとは決まったわけではないのだ。
ひとまずは、何とかして王様方に気に入られなければ。
幸せな推し活…否、従者ライフのために、ワタシは気合いを入れた。