美姫、早くも不安
灰色のアンデッド…仮称・グレイとの話し合いが落ち着いた後、わらわ達はひとまず負傷者の確認と手当を行うことにした。
不意打ちの上位魔法だったとはいえ、流石は王直属の騎士団。
重症者は多数居れど、死者は1人も出ていないようである。
皆で手分けをして、応急処置をしていた時。
突然空を覆っていた雲が薄れ、陽が差し始めた。
魔法を使った悪霊が滅び、効果が解けたのであろう。
その途端。
「あ?あ…あ〜〜」
グレイがぷすぷすと煙を上げ始めた。
焦げたような臭いが、少し離れた場所に居るわらわの元まで届く。
「…グレイ?其方、一体…⁉︎」
「いやー…すみません姫様。ワタシ、そういやアンデッドでした☆あ〜…焦げる焦げる」
「『あ〜』では無いわ!」
わらわはグレイに駆け寄ると、慌てて羽織っていたマントを灰色の頭に被せた。
「アッ、姫様お優しい…一生着いていきマス」
「それどころではなかろう!全く…陽の元に出られぬのなら、わらわの護衛など出来ぬぞ」
そう言うと、グレイの灰色の顔色が紙のような白に変わる。
「すみません慣れます‼︎つか慣らします‼︎焦げても焼死霊に転職するんで‼︎」
「職業でアンデッドをしておるのか其方は」
そこにエルシュが口を挟んだ。
「日光克服型のアンデッドなら、たまーに存在しますよぉ。だからグレイさんも可能性あると思います」
「マジ?」
「マジです。でもあんまり焦げちゃうといけないので、日光に慣れるまでは何か対策しないとですねぇ」
グレイは少し考えた後、何か思いついた様子で目を輝かせた。
「なら…」
突然フッと灰色の姿が消えた。
消失してしまったのかと思ったが、グレイに被せたマントが宙に浮いている。
何が起こっているのかと端を捲ってみれば、灰色の手首だけが浮かんでマントを支えていた。
「このサイズなら、携帯に便利では?姫様の鞄にでもポケットにでも入れますよ!」
その発言に、ヴィーゼルが反応する。
「ポケット、だと…⁉︎貴様、アンデッド‼︎オリガ様に不埒な行為を働くことは、このヴィーゼルが許さんぞ‼︎」
「例えだよ‼︎誰がそんな不敬なマネできるか‼︎」
剣に手をかけるヴィーゼルを、わらわは静止した。
「止めよ。傷が開いたらどうするつもりじゃ」
「っ、しかしこの程度」
「無理をするでない、決して浅くは無かろう。安静にせよ。わらわの命じゃ」
「…はっ」
ヴィーゼルはしょんぼりと肩を落とした。
その時、1人の騎士がこちらにやって来た。
「恐れながら報告申し上げます。負傷者の手当が粗方終了しました」
「…うむ、すまんな」
団長の顔に戻ったヴィーゼルが、次の指示を出す。
「傷の深い者達は、先に帰還させろ。戦いに支障のない者達は残り、予定の時刻まで討伐を続行する」
「はっ。…そちらの御仁のことは、帰還した者達に報告を入れさせますか?」
騎士がチラリと、浮遊する手首に目をやる。
「…そうだな。頼む」
「はっ」
騎士は敬礼し、負傷者を集めた場所へ走っていった。
…さて、父上や兄上達はどうお考えになるのか。
一波乱の予感に、わらわはこっそりと溜息を吐いたのであった。