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【番外編】降り止まない雨の世界ε

 

『つまらないデイズ もう散々ね 奇跡願ってるだけの人生』


 私は曲を流すと、ベンチに座ったままで戸惑っているざえの手を引いて強引に立ち上がらせる。


「ざえ、ダンスはしたことあるかしら?」


「バレエはやったことある……けど、ダンスは──」


「じゃあ丁度良いわ……ねっ!」


 私は彼女の手を引いたまま中庭の芝生に向かって駆け出す。が、途中でざえは手を振り払って、困惑の表情をする。


 私とざえ。

 雨の落ちるこちらと、落ちないあちら。

 まるで生きている世界が違うように、私とざえの間で見えない壁があるように感じられる。


『秒針は 音を立てて 夜を急かす 魔物のよう』


 私の制服はあっという間に雨を吸収して肌に密着するが、そんな事はお構いなしに私は音に乗って踊り出す。

 彼女には、今を無邪気に生きる姿を見せなければいけない。

 子供のようにはしゃぐ、誰よりも輝いた、星のような姿。


『人生は 一瞬にして 溶ける魔法』


「ざえちゃん! こっちきなよー! たのしいよーっ!」


「……っ!」


『それならば 駆け抜けて 想通り!』


 ざえは、駆けた。


 彼女の体に当たって弾ける雨が、細かなガラスの破片のように煌めく。


 彼女の浮かべていた涙は、もうどこにいったか分からない。


 こちらに走る彼女を、私は抱きついて出迎えた。


「ざえちゃん、あられのダンスみてまねできる?」


「……やってみる」


「んいよしっ!」


『いつかは喝采クラップオウデエンス 皆皆 御唱和あれ!』


「ビビデ バビデ ブーワ! ビビデバビデブーワ!」


 私が腕をクロスすると、対面のざえが少し遅れて同じポーズを取る。


 体を振るえば雨が弾けて、私の振動が空間にこだまする。


『今夜に明日など無い ならば自由に踊った者勝ちでしょう?』


「たのしいでしょっ?」


「……わからない」


 私の笑顔に応えずに、彼女は下を向く。

 雨が強くなって、次第に音楽がかき消される。


 が、ざえの放った一言は、それらの飛沫を押し退けて私の耳に伝わった。


「でも、アメリカの時を少し思い出せた気がする」


 彼女は曇りの晴れた顔で私に微笑んだ。


「ありがとうね。あられさん」


「……チャンネルとうろくよろしくねっ!」


 私達は笑い合う。

 アニメの感動的な場面のように、タイミング良く雨が止むことはなかったが。


 この雨が止まないでほしかった私達には、降り注ぐ雨粒一つ一つが、まるで奇跡のようだった。


「……へぶっ!」


「へっくしゅ!!!」


 ……そして、後日二人揃って風邪を引いた。


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