【番外編】降り止まない雨の世界α
6月上旬。
梅雨に入ったことで雨雲達が張り切り出したのか、ここ数日窓に特攻し続ける雨粒達に憂鬱としながら、私は教室へ向かっていた。
ふと視線を窓から外すと、十数歩前に歩いているざえの姿が目に入る。
低気圧に悩まされているのだろうか、彼女の少し曇った横顔が見える。
何となく話しかけづらくて後ろから様子を伺っているうちに、教室に辿り着いてしまった
表情は相変わらずのまま、扉に手を伸ばすざえ。
と、ガラガラと扉が勢い良く開いて、そこから元気に飛び出してきたクラスメイトと危うくぶつかりそうになる。
ざえとそのクラスメイトはお互いに驚くと、クラスメイトの方は少し気まずそうな顔をしてそのまま通り過ぎていってしまった。
そのクラスメイトの行動に私は少し驚く。
確かあの子は、以前ざえと廊下で話していた女の子だったはずだ。
あの時はてっきりざえがクラスに打ち解けてきたのだと思って、少しほっとしていたのだが……
そのクラスメイトの反応とざえの曇り顔は、どうやら無関係ではないようだ。
「ごめんあまちゃん! 今日はあっちとご飯食べることになってて……」
「別にいいわよ。そんな謝ることじゃないでしょ?」
チカは人付き合いが上手い。その為、今日のように私と一緒に昼食を食べないことの方が、実は多かったりする。
さて、事情聴取といきますか。
私とざえは、角度を斜めにして攻めてくる雨粒に当たりながら、中庭のベンチに腰を下ろした。
このベンチには一応屋根がついており、多少の雨なら防げるように出来ている。このような斜めの侵食は防げないが。
いただきます、と同時に手を合わせると、私達はそのまま無言で昼食にかぶりつく。
チラッと隣に視線を向けてみると、ざえは相変わらずの浮かない顔をしていた。
「……何かあったの?」
「……」
彼女はさして驚いたような顔もせず、無言のまま口の中のものをゴクリと飲み込んだ。食欲に異常は無いらしい。
「……気まずいかなって、言われた」
彼女は私の方は向かずに、雨でじんわりと濡れていく自分の靴下をじっと見つめながら話す。
「……昨日。桜田さんと話してた。最近はいつも私に話しかけてくれてたから、私も話してた」
桜田さん、とは先程のクラスメイトの名前だ。
「昨日も話してた。じゃあ『私と話すの気まずいかな……?』って。言われた。そこから、避けられてる、と思う……」
彼女の声が少し鼻声になっているのに私が気がついた時には、彼女はもう限界を超えてしまったようだった。
「……あられさんっ! ……私は……どうすればあなたみたいになれるの……?」
何かがプツンと切れたように。
こちらへ振り向いたざえの目には、大きな雨粒が溜まっていた。




