#8.初配信は振り返るものではない
「うぐぅ……確かに……」
チカは少し落ち込んだ様子で、何故か申し訳なさそうな顔をする。
きっと私がVTuberなんて確証はなかったのだろうし、彼女も冗談まがいで聞いてきたに違いない。だとすると、少し言い過ぎたかもしれない。
「……ねえ、そのあられって子にちょっと興味が湧いてきたかも。教えてくれるかしら?」
すると、さっきまでの顔がまるで嘘のように目を輝かせて、パアアっと表情を明るく変えた。
「しょーうがないにゃあー! このVTuberガチオタクことチカ様が特別に教えてしんぜよーう!」
「もう、すぐ調子に乗るんだから」
仕方ない……私から言い出した事だし、少しくらいは付き合ってあげよう。それに、これは視聴者からの意見が直接聞ける良い機会だ。利用しない手は無い。
「では、あられちゃんの伝説初配信から見てみようぞ!」
「そうしましょうか」
……ん? いや待て。
今から、二人で私の初配信を見る……?
それはつまり……今ここで初配信を振り返るということ……!?
初配信振り返り。
それはデビューして数年が経過したVTuberに訪れる、ある種のミッション。その名の通り自身の初配信を振り返る行為であり、VTuberは振り返り配信を視聴者の圧によってほぼ強制とされる。
いまゆる"初配信振り返り配信"は、活動者が自身の初配信を閲覧しながら当時の心境や裏話を語り、またその頃の初々しさを見て懐かしむ、というなんとも感慨深い配信なのである。あぁ、なんとも素晴らしい。
「そんなわけないでしょ!!!」
「え? あまちゃん急にどしたの!?」
そう、そんなわけはない!!
初配信とは誰しもが緊張するものであり、様々なミスが多発し、また妙なキャラ設定を突き通すことが多い為、それを数年越しに見たVTuberはみな凄まじい共感性羞恥に見舞われ、振り返り配信は大抵悲鳴の嵐を呼ぶ地獄配信となるのである。
まずい……話題に出たとしても数年後だろうと高を括っていたのに、まさかこんなに早く初配信を振り返ることになるなんて!
私はチカに連れられて、体育館から人気のない中庭の木陰にあるベンチに移動した。
チカは再びスマホを取り出すと、動画配信サイトを開く。
「あら、そのアイコンの写真……もしかしてハムスター?」
「そう! この前飼い始めたの! サタンっていうんだよ!」
なるほど、この魔王サタンが作り出す地獄というわけだ。
……って、こんな話題転換なんてただの時間稼ぎにしかならない。
覚悟を決めよう。
「じゃあ、いっくよー?」
私は目を瞑り深呼吸をしてより一層の気合いを入れる。たとえ恥ずかしいものだったとしても、最悪は顔にさえ出さなければ問題ない。
ポーカーフェイスなんてお手の物、なんてったって私は常に全国模試1位の天才JK! こんな試練くらい容易に耐えてみせる!
〜3分後〜
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」
八話でキャラ崩壊?
***
第八話読了ありがとうございます!
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