#80.私達は帰路に着く
ブクマ200ありがとうございます!!!
明日2回投稿します!
時刻は23時過ぎ。
すっかり暗闇の支配下となってしまった領域で、ポツポツと光る街灯の灯りが必死にもがいて抵抗している様が見える。
スっと夜特有の涼しい風が体に当たって、自然と微笑んでしまう。
夜のこの不安定で奇妙な感じは、何だか配信と似ている。
「配信したくなってきちゃった……」
明日も学校であるし、あまり時間は無いのだが……30分位の雑談なら大して問題は無いはずだ。
幸いネタは沢山手に入れたので、話すことが尽きる心配はない。
とりあえずインターンのことは詳細が決まるまで黙っておくとして、5期生やきうい姉に会ったことを話して──
「──きゃあっ!」
話す内容をまとめていると、突然右足が妙に柔らかい何かにぶつかり、私は驚いて悲鳴をあげる。
暗闇のなか足元に目を凝らしてみると、何だか道路に横になっている人影のようなものが見えた。
輪郭的に若い女性だろうか。恐らくスカートを着用しており、手には四角い鞄を持っている。鞄の大きさは……そうそう、丁度今私が持っているのと同じくらいの……
「あまちゃああああん!!!!!」
その人影はゾンビのように立ち上がると、雄叫びを上げながら私に飛び付いてきた。
「き、きゃあっ!!!」
「がふぐべっ!!」
私は咄嗟に鞄を振り回すと、その一振がゾンビの後頭部にクリーンヒットし、そのままフラフラと揺れて直に倒れた。
私は無様に倒れるソレを見つめながら、先程の声に聞き覚えがあることに気づく。
そういえば……失神した彼女を置いていったのも確かこの場所だったような……
「……もしかしてチカ!?」
私はようやくその正体に気づくと、慌てて彼女のそばに駆け寄る。薄暗いながらも見えるその顔は、間違いなくチカであった。
あの時からおよそ4時間は経過している。まさか……その間ずっとここで寝そべっていたのか。
もし彼女に気づかずこのまま通り過ぎてしまっていたら……と考えるとゾッとする。
「あまちゃああああん!」
彼女は声を震わせながら私の方を見る。彼女の顔は涙を堪えているような、怒りを抑えているような、そんな表情をしていた。
……まあ、これは怒られても仕方がないか……
どうせ直ぐに目覚めるだろうと放っておいた私の責任だ。チカのことだから大丈夫、と呑気に思っていたが、現に彼女はこんなにも傷ついて私を睨みつけている。
無事であったから良かったものの、何かしらの犯罪やトラブルに巻き込まれる可能性だってあったのだ。
私はせめて誠心誠意謝罪しようとチカに全力で頭を下げる。
「チカっ! 怖い思いさせて本当にごめんなさ──」
「私きういお姉さまとキスしちゃったわあああああ〜〜〜〜〜っっっ!!!!!」
……あぁ、そっちね。
少し鼻のつくような話し方でルンルンご機嫌気分を表現するチカに、私は安堵のため息をつく。
「ねぇ聞いて!! キスってどんな味をしているか知っているかしらぁ? キスってね……ほんのり苦くて、アルコールの匂いがするのよーっ!!!」
「……それってビールの味じゃないの?」
「そうそうそんな感じよ! よく分かったわね!!」
「……その喋り方やめてくれない? 何か癪に障るんだけど」
「えへへ〜ちょっとくらいいいじゃんかぁ〜!!」
チカがユラユラと体を揺らしながら立ち上がると、街灯の光に触れて顔が少し照らされる。
……ん? ……こいつ顔赤くないか?
その瞬間、点と点が線で繋がる。
まさか……きうい姉から受け継いだアルコールで酔っているのか……こいつ……
チカが物凄く酒に弱いのか、それともきうい姉ブレンドの特性豊穣ビールが凄まじいのか……
少し気になりはしたがきうい姉の特製ビールは死んでも飲みたくないので、私は考えるのを放棄した。
と、体を揺らしていたチカが突然ピタッと止まり、力尽きたように倒れ込んで私に抱きついてきた。どうやらもう限界だったようだ。……本当に、済まないことをしてしまった。
私はすっかり眠りに堕ちてしまったらしい彼女に罪悪感を覚えながら、うんしょ、と彼女を持ち上げる。
ここからチカの家まで……良い散歩になる。
「……こんあられぇ〜……きょうもかわいいよぉ……むにゃむにゃ」
「……ふふ、分かったわよ」
チカに肩を貸して帰り道を歩きながら、私は再び話のネタの整理を始めるのだった。
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ライバース編前半戦終了!
ここから怒涛の後半戦──の前に、ちょっと番外編挟むかもです。




