#77.会議が始まる
最上階のランプが点灯したエレベーターは、私達を乗せてスムーズに上昇すると、体の浮き上がるような感覚に妙な不快感を覚え始めた位に、ゆっくりと上昇を停止した。
ピンポーン
扉が開くと同時に鳴り響いたその音は、閑散としたフロアに反射して響き渡る。先程が賑やかだったこともあり、この静かな空間に少し哀愁を覚えた。夕焼けに一人帰り道を歩いている時に感じるような、少し奇妙で物寂しい感覚。
だが、不思議と不気味な感じはしてこない。むしろ心地よくさえある。
「落ち着くでしょう?」
社長室に向かって並んで歩いている最中、ルナが少し嬉しそうに問いかけた。
「は、はい! すきなふんいきです」
「日中はここにはあまり出入りしないんだけどね。時折頭を休ませたい時とか、仕事終わりには、ここで良く寛いでいるの。まぁ、時折誰かさんに邪魔されるのだけどね」
そう言い終えると同時に、彼女は足を止めてドアノブに手をかけた。
ダークブラウンに染められた扉の中央には、"社長室"と記された札が設置されてある。
ガチャ、とその扉が開かれると、夜景を一望出来る正面の巨大な窓がまず一番に目に飛び込んできた。
次いで、その窓を背に堂々と君臨する社長机。
その前方に置かれてある二つの高級ソファ。それらに挟まれる長机。そしてその上に放置されてある……ビールの空き缶。
「あはは……」
不法投棄犯の方に向かってほほ笑みかけると、犯人はあえて私と顔を合わせず間抜けな口笛を吹いて誤魔化した。
「さあ、それでは本題に入りましょうか」
私ときうい姉が一方、ルナがもう一方のソファに座って、長机をまたいだ状態で話し合いが始まる。
「まずはあられさん、単刀直入に聞かせてもらいます。ライバースに加入してくれるか、それとも……」
……正直、まだ決めあぐねている、と言うと怒られるだろうか。
実は、スカウトの話があった直後、ざえとの一悶着があったせいであまり考えられていないのだ。
少し悩んだが、正直に今の気持ちを伝える以外に他は無いと判断した私は、今の心情を包み隠さずに二人に話した。
すると、予想とは裏腹に和やかな顔をして、ルナが口を開く。
「……分かりました。では、一応、ライバースに加入した場合はどうなるか説明しておきます。普通は個人の活動者をスカウトした場合は"転生"という形で、別のライバーという名義で活動してもらいます」
転生とは、活動者がその活動を休止した後、違う人物というていで名前や姿を一新して新たに活動を始めることを言う。
個人から企業に入る際は、権利の問題からこうした対応が行われる。
例えば個人勢のVTuberが名義をそのままにライバースに入ったとすると、何らかの不祥事によってそのVTuberが解雇された場合、名前やモデルの権利は企業ではなくそのVTuberに帰属するため、権利による金銭的な問題が発生しやすくなってしまう。
更には解雇された後に個人として活動を再開することも可能になる。そうなれば最悪、企業製作の衣装やイラスト、何よりライバースという看板による知名度を持ち逃げされうるのだ。個人活動での金銭的利益は企業所属をゆうに越えているため、頃合になって事務所を辞めるVTuberが多発するかもしれない。
それなら、全てを一新する形で権利を企業側が所持する方が都合が良いに決まっている。
のだが……
「が、あられさんに関しては、"甘姫 あられ"さんのまま活動を続けて欲しいと考えています」
現在の登録者数:184,210人(105人up⤴︎︎︎)
ちなみに、きうい姉はライバースに向かうタイミングで事前にルナに連絡しています。
ルナもあられの騒ぎが収まり次第事務所に招待しようと考えていたので、スムーズに事が進んでいます。
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