#73.陰キャは震える
ユリの口上が詠唱された後、辺りはシーンと静まり返った。
誰も口を開こうとしない、突然の沈黙が数秒に渡って継続される。
ユリは先程の胸を張った体勢を維持しながら、肘でちょんちょんと隣にぶつける。
「ぇ……」
ついさっき隣に到着した紫髪の少女──火火 すぴかはか細い声で反応すると、ユリが自己紹介を所望していると気づいて無言のままアタフタする。
しばらくして覚悟を決めたのか、数回深呼吸をしてから両手をギュッと握りしめて私の方に目を向ける。
「……ぁ……ぇ、ぇと……びきゃうひあぇ……すぅー……」
文字が進む度段々と目線が下がっていき、遂には足元を見つめながら声も息に変わって消えゆくように発言を終えた。
また暫く沈黙が続く。
「……?」
私が頭にハテナマークを浮かべると、すぴかはその反応に驚いたのかまた焦って体を震わせる。
私はその挙動不審な行動で気がつく。
……え……まさか……今のが自己紹介……?
私にはイルカの泣き真似にしか聞こえなかったのだが、他の皆はちゃんと聞き取れたのだろうか……と隣のきうい姉の様子を伺ってみると、無言のまま苦笑いをしている。
誰も何も話そうとしないまま続く沈黙。
それによりすぴかの振動速度も急激に上昇していき、遂にスマホのバイブのように音を立てて数体の残像が見え始めた頃に、ようやくメテオが口を開いた。
「ハッハァー!! 相変わらずの陰キャぶりだなァーッ!!!」
「ぐふぁ!」
今日一番の大声で白目を向く彼女の背中を、メテオが笑いながら力強く叩く。
……あー……なるほど。
陰キャ!!!!
この言葉はかなり殺傷能力が高く、トラウマを持つ者も少なくないだろう。
陰キャとは、陰気なキャラクターの省略形であり、主に内向的な性格で人と関わるのが苦手な人への蔑称として使われる。
"ぼっち"と似通う部分もあるが、"陰キャ"の方がやや広義的で、単に容姿に気を使っていないというだけでそう呼ばれることもある。
何とも酷い言葉であるが……正直、過度のストレスで立ったまま気絶しているすぴかにピッタリなのは確かだった。
すると、ユリが気を失っているすぴかの後ろに立って彼女の手をあちらこちらに操作する。
「私は火火 すぴか! 皆からはすぴすぴって呼ばれてるヨ! 人付き合いは苦手だけど、仲良くしてネ!」
思うがままに口をパクパクさせられ、すっかり操り人形と化してしまっているすぴかの様子に思わず苦笑していると、きうい姉が呆れながらに口を開く。
「もぉー腹話術じゃないんだからぁ〜……そんな雑モノマネじゃ誰も騙されないぞぉー?」
「オオッ!! 挨拶できるようになったのかァーすぴか!! アッパレだぞ!!!」
「あぁ〜……一人いたわ……」
諦め交じりの声で苦笑いするきうい姉を見ていると、ふと、つんつん、と太ももをつつかれる感触がしてそちらの方に目を向ける。
と、いつの間にか、なのが私の足元に来てこちらを見つめていた。
「なのちゃん、どうしたのー?」
「……すぴかは配信の挨拶も言えないほど陰キャなの。もう一年も経ってるのに誰もすぴかの挨拶聞き取れてないの」
えー……それはちょっと度を越している気がするが……
「でも、こう見えてすぴかは良い奴だから仲良くしてあげてほしいの。すぴかはまだ未成年だから、あられが一番歳が近いの。きっと話も合うと思うの」
「あれ? なのちゃんは?」
「……私はゴリゴリに成人してるの。アラサーなの」
「……え、えええええ!?」
こんな幼げな見た目でアラサー!?!? 実在したんだ、合法ロリ……
「私は年功序列思考なの。歳上の言うことは絶対なの。敬意を表すべきなの」
小さな体から大きな圧を感じる……
「……は、はい……なのさん」
敬語を使ってあげると、彼女は、ふふん! と分かりやすく満足気な反応をした。
全裸徘徊、脳筋騎士、合法ロリ、陰キャ。
これでもかと言うほど要素が詰め込まれた5期生達を前に、私はここがどういうところか理解した。
ライバース……やっばぁ……
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