#71.ソレイジョウハ イケナイ
ライバース所属、5期生。超強い騎士 メテオ。
名前の通り、普段は騎士として修行に励んでおり、鍛錬の一環として配信活動を行っている、という設定だ。
特徴としては、想像を絶する馬鹿。言うなれば脳筋騎士。
だが、彼女はきうい姉ほどには及ばないものの多くの支持を集めている。登録者数は二ヶ月前時点で70万人くらいだったはずだ。
常人では決して重いもしないような奇妙な行動を高頻度で繰り出す為、その目新しさがウケているのだろう。この点ではやはり、私の活動スタイルと似ている所がある。
4期生のきうい姉は二年前、最新の6期生は私が活動を始める一ヶ月前くらいにデビューしていたはずなので、5期生のデビューは丁度一年前くらいだろうか。
甘姫 あられの準備期間中、私はVTuberとは何たるかを理解すべく様々な知識をネットから引っ張り出して頭に詰め込み、分析と研究を連日連夜行っていた。のだが、当時、自分は個人で活動するものだと考えていた為、企業勢VTuberは有名なライバーと直近でデビューした注目株以外、実はあまり把握していない。
とは言ってもライバースのスカウトの話を頂いたのだから、その時にでも調べておけば良かった。これは要反省である。
ところで、記憶を探ってみると、メテオの2Dモデルは確か青髪だったはずだが……まあ、仮想と現実で同色の髪にしなければならないなんて決まりは無いのだから何ら問題はないのだが──
ガッシャラガッシャーン!!!
いやいや、そんな考え事を挟んでいる暇などない。私は今、生首に驚いて誤って鞄の中のものを撒き散らしてしまったのだ。
筆箱、教科書、水筒に空の弁当箱、そして──表札。
「あ……」
せめて裏向きに散らばってくれればまだ良かったものを、まさかの表札全てが表向きになっているという事態。
これには、状況を理解していないメテオ以外の全員が思わず目を点にしていた。
少しの沈黙の後、まず最初にきうい姉が口を開いた。
「うえええうえぇぇいっ!? どどどういうことぉ!? 表札!? なんで!? ……まさか暗殺教──むぐ、もごぉ!!」
私は危機を察知してきうい姉の手をガバッと掴むと、それを彼女の口の中にダイレクトアタックさせて黙らせる。
ソレイジョウハ イケナイ。何故かは分からないが本能的にそう悟ったのだ。
「むぐごぉ……べぇっ!! な、なにするのぉあられちゃぁん!!!」
半分涙目で訴えかけるきうい姉。
全く、ちょっと手を突っ込んだくらいで大げさな……
チラッ
「「ひっ!」」
私と目が合ったなのとユリは、二人揃って悲鳴をあげると、バッと両手で自身の口を覆う。
あれ……これは少しやりすぎたのかな……まあいいか、きうい姉だし。
「尊厳が跡形もなく消えてる気がするぅ!!!」
きうい姉の嘆きを聞き流しながら、私は床に散らばった物を拾って鞄の中に詰め直す。
最後に二枚の白の表札を手に取ったところで、私はふと思いつく。この二枚は丁度真っ白なのだから、これをサイン色紙の代わりにすれば良いのだ。それなら丁度私とチカの分に出来る。
私は筆箱から油性ペンを取り出すと、二枚の表札と一緒にメテオに手渡した。
「メテオさん! これにサインかいてくださーいっ!」
「うむ! 良いぞ!!」
「……狂気なの……イカレてるの……はっ!」
なのがボソッと言葉を零したが、私と目が合った途端慌てて再び口を塞ぐ。
……ん? なにかまずい印象を与えているような……
と、それよりも私には気になることがあった。
生き生きとした表情でサインをこと細かに描くメテオ。
その遥か後ろでこちらを覗く生首改め、紫髪の女の子。
絶妙な角度によって壁から首が飛び出ているように見えたが、実際は扉があって、そこから顔を覗かせているだけらしかった。
先程からずっとこちらを見つめているのだ。
いや、大切なのはそこではない。
ほんの一瞬、私がその生首を目撃してから悲鳴をあげるまで──恐らくは生首側の女の子が"私が気づいた"のに気づくまでのその一瞬、私は確かに感じられたのだ。
今日出会った中で一番のインパクトを持つメテオ。
それどころか、超人気ライバーとして今を生きるきうい姉すらを凌駕する。
圧倒的なカリスマ性──オーラ。
あの子が……今日出会う中で一番の大物かもしれない……!
私の背中に緊張が走った。
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