#66.遂に足を踏み入れる
路地裏は少し異様な雰囲気であった。
曲がり角は多々あるもののずっと同じような景色で、いよいよ本当に進めているのかすら不安になった頃に、ようやく行き止まりに突き当たった。
「きういさん? この道、本当にあってますか? 行き止まりですけど……」
目の前はビルの外壁達が厳かに佇んでおり、これ以上進むことは出来なさそうだ。
来た道に枝分かれは無かったので道に迷ったのではないだろうが、そもそも入る路地裏を間違えたという可能性も十分に考えられる。
「安心して〜。ここであってるから」
彼女は目の前の外壁に右の掌をくっつけると、ニヤニヤしながらこちらに視線を送ってくる。
「何を隠そう! ここに勇気を出して飛び込めばぁ〜……なんと9と3/4番線のようにすり抜けてぇ通ることが出来るのだ!」
「……私はマグルなので通れません」
「いや、あられ君! 君には魔法使いの才能が──」
「ふざけないでください。私、明日も学校なんですから手短に」
不服そうな顔で"やれやれ"と腹立たしいポーズを取るので、いっそこのまま帰ってやろうと思ったが、事務所には如何せん興味が湧いているので、仕方なくその場で踏み止まる。
きうい姉は外壁沿いに左へ歩くと、そこに設置されていたドアノブに手を伸ばす。
あれ? あんなところに扉があったんだ……
扉はビルのコンクリートと随分似通ったデザインが施されており、かなり高品質なカモフラージュとなっていた。
なるほど、これはイギリスの魔法使いもバカにできないトリックだ。
その扉から中に入るきうい姉を追って、私も恐る恐るビルに足を踏み入れた。
ここが……ライバースの……事務所……?
まっさらな床のタイルと内壁が作り出す清潔感はとても好印象であったが、あまりにもこじんまりとしているのと、目の前にエレベーターのみが設置されてあることから、ここがまだ事務所では無いことに気づく。
私のその様子を見て、すかさずきうい姉が補足を入れてくれた。
「このビルは6階から最上階がライバース関連のフロアになっててねー。身バレ防止でこっちの道を使うライバーは、このエレベーターで6階まで行くことになってるんだよー。一応、表のエントランスからも6階に繋がるエレベーターはあるんだけど、そっちは基本的にマネージャー用だね〜」
成程。事務所としてライバーが出入りするフロアと、それ以外の技術開発などを手掛けるフロアを完全に分けてしまっているのだ。
確かにそうすることで、アットホームな環境を作成でき、またライバー達に向けられる他の社員の目も無くすことが出来る。
VTuberという繊細な部分が多い職種だからこそ、独自のシステムで補って最適な職場作りを心がけているという訳だ。
……何だか褒めすぎて逆に自分でも怪しくなってくるのだが……まあ、公平な立場の私がフラットに評価してもこれだけ素晴らしく感じるというのは、やはり超人気事務所の肩書きは伊達じゃないということだ。
ピンポーン
エレベーターの到着音と同時にゆっくりと扉が開き、私達はそれに乗り込む。
2から5のボタンが消失している所にその徹底ぶりを感じながら、私は6階のボタンを押すと、エレベーターの扉がゆっくりと閉まって遂に上昇し始めた。
右上の画面に表示される階数を表す数字が増えていくにつれ、どことなく緊張してくる。
ピンポーン
数字の6が表示された所で先程も聞いた無機質な音がエレベーター内に響き、またゆっくりと扉が開く。
私は思わず、ごくりと固唾を飲み込んだ。
ライバース……私にとっての未知の領域……この目で確かめてやろうじゃないか!
エレベーターの扉が完全に開き切ると、視界を介して私の脳内に沢山の情報が流れ込んで来る。
が、一番の迫力を持って飛び込んできたのは、白に統一された綺麗な内装でも、所々にアクセントとして設置されている観葉植物でも、壁際に飾られた登録者数を祝うトロフィーでもなく……
目の前で腕を組んで困り顔をする、ピンク髪の"裸"の女性だった。
現在の登録者数:183,209人(152人up⤴︎︎︎)
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