#65.リスク管理はお大事に
VTuberに限らず、ゲーム実況者や歌い手、ボカロPなど、近年、素顔を隠して活動する配信者達が増加している。
一昔前は容姿を公開し、現実で何らかの動画を撮影し投稿するスタイルが主流であった。が、インターネット上に自身の顔を公開するのは相当リスクが高く、ゲームや音楽などの仮想上のものだけで成立するジャンルの需要が増していくにつれ、顔を出さずに動画を撮影する活動者が徐々に増加していった。
VTuberは、その変化の産物とも言える存在でああり、とある問題を解決した新時代的なものでもある。
当時、顔を出さずに活動する人が増えたものの、その中で爆発的な人気を得る者は少なかった。
それもそのはず、顔を隠すことには、実は大きなデメリットがあるからだ。
それは、実写系の動画投稿者に比べてファンの信頼を獲得しにくいことだ。
人間は人と関わる時、大抵相手の顔を伺う。その表情からこと細かく情報を得ることで、相手の心情や考えを瞬時に汲み取ることが出来るのだ。これがコミュニケーションを取る上でとても重要な要素の一つであることは、人類がここまで発展した要因の一つに"表情筋があるからだ"と述べられることから明らかであろう。
一方、これは裏を返せば、"顔が見えない限り上手くコミュニケーションが出来ない"という論に結びつくことになる。
実際、顔の見えない相手への信頼度は極端に下がると言われている。それもそのはず、なんなら顔見知りでない、ましてや何処の馬の骨とも分からない人間を信頼する方がよっぽど難しい。
この心理的現象による素顔非公開のデメリットを、VTuberは擬似的に顔を作り出すことで攻略した。
現実世界の活動者と電脳世界のモデルの表情の動きをリンクさせることで、顔の代用品を画面上に作り出したのだ。これにより、信頼度の極端な減少を抑えながら、活動に生じるリスクも軽減させるという良いとこ取りをなし得たのだ。
私が学校に通いながら活動出来ているのも、現実世界の自分と異なるキャラクターを演じることが出来ているのも、このVTuberの革新的スタイルのお陰だ。
が、無論それによって生じる問題も存在する。
あくまで2Dのモデルは代用であり、本当の姿ではない。それにより視聴者は想像してしまうはずだ。現実ではどんな姿をしているのだろうか、と。
しかし、それはVTuber界に存在する"パンドラの箱"! 触れてはいけない"禁断の果実"!! 殆どの視聴者は"暗黙の了解"としてこのことには触れずに、気になる気持ちを必死に抑えて推し活を送っている。
が、その感情が暴発してしまった者も一定数はいたらしい。私の視線が指す彼らこそ、その類である。
彼らは何の気なしに立ち話をしているかのように装っているが、彼らの握るスマホのレンズはバッチリとビルのエントランスに向けられている。
恐らくあそこから出てきた活動者と思わしき人を盗撮しよう、という魂胆であろう。
きっと路上駐車中の車の搭乗者達も同様の目的……いや下手をすると、タクシーに乗って帰る活動者を家までストーキングするつもりなのかもしれない。
普段はコメントで優しく接してくれる民度の高い視聴者だからこそ、こういった狂気的な面を目撃してしまい思わず全身に寒気が走る。
「怖いよねぇー、いやまぁ気持ちは分かるし嬉しいけどさぁ〜? やっぱり節度を守って欲しいよねー」
「あそこから出入りするとアレに巻き込まれるから、裏道を使っているんですね」
「そーゆーことー」
……きうい姉のリスク管理能力が高い理由が分かった。そりゃ事務所に向かう度にあの光景を見せられれば、誰だって自ずとそうなる。
……そう思うと、やはりざえは相当危険なことをしているらしい。その証拠に転校早々からバレてトラブりかけたいたし……あの子、大丈夫か?
「通報はしないんですか?」
「んー、一応あれでも私たちのファンだしさぁ〜、いちいち通報してもキリがないってのはあるねー。それに、あのバカ社長のせいってのもあるからさー」
「……と言いますと?」
「だって、事務所とかライブスタジオが完備されててタレントが出入りするとこなんだよー!? それなのにあんなバカでかいロゴなんか付けちゃってさー! 私達ココにいますよーって言ってるようなもんじゃん!!」
突然感情を爆発させたきうい姉が、プクプクに頬を膨らませながら足をジタバタさせてその不満を表現する。
「もう恒例行事だよぉー! オーディションに受かった新人が、『私、あそこ通るのが夢だったんですよね……もう一生通れませんけど……』って乾いた声で笑うの!!! 見てらんないよ!!!! あんなのぉ!!!」
「あはは……」
どうやら相当溜まっていたらしい。
思う存分吐き出した彼女は少し深呼吸をして冷静さを取り戻す。
「……じゃ、行こっか」
「は、はい……」
情緒不安定気味なきうい姉に私は少し狼狽えながら、何とも言えない絶妙な空気感を維持したまま私達は先へ進んだ。
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