#63.正面から対峙する
「ここが……ライバースの事務所……」
周辺のビルとさして変わらない高さであるのに、何故か実物よりも数倍大きく感じる。
その迫力に思わず声が漏れてから、私は自身の失態に気づいてハッと両手で口を塞いだ。
恐る恐るきうい姉の方を伺ってみると、彼女の表情から察するにギリギリ許容範囲内だったようで、大きく息を吐いてひと安心する。
株式会社ラナンキュラス。
主にVTuber芸能事務所として"ライバース"グループの運営を行っている他に、最新のVR技術で新商品やアプリケーションの開発、メタバースサービスの展開など多岐に渡る活動で電脳世界の更なる発展に貢献している会社だ。
しかし……この会社に足を踏み入れる事自体を夢として掲げる人も多くいる中、私なんかがこんなにあっさりと敷居を跨いでしまっても良いのだろうか。
女性VTuberにとって、ライバースとは正に頂点である。
ライバースの一員としてデビューを果たせば、チャンネル登録者数100万人突破などほぼ確実。
加入時点で、地位と名誉、そして莫大な報酬が保証される。
さらにそれだけでは無い。
VTuberとして活動を行う者の殆どは、VTuberオタクである。私はその例外ではあるが、それでもVTuberのことは決して嫌いではない。
VTuberまたはVTuber志望者はまずVTuberが好きだと断言して良いだろう。
となると、必然的に好きなVTuber──所謂"推し"ができる。当然、推しと接触したいという理由でVTuberを目指す者も一定数出てくるはずだ。
では、推しの所属する事務所はどこか。
私やざえのように個人で活動する"個人勢"VTuberが絶大な人気を獲得することは至って稀。業界のトップを占める層は殆どがどこかしらの事務所に所属しているのが現状だ。
すなわち、チカのような相当なオタクでは無い限り、推しがライバースに所属しているというケースは当然多くなるのだ。
更には、企業に所属するVTuberはライバルである他社VTuberと関わることは決して多くない。
私達とコラボしたいならここに入らなきゃいけませんよ、と暗に示しているという訳だ。それが故意か、偶然かは判断し兼ねるが。
その他にも様々なメリットがかけ合わさって、VTuber志望者は勿論、個人勢として現在活動中のVTuberにさえも、心中で大人気企業に所属したいと思わせているのだ。
そんなところに私なんかが本当に……いや違う!
パチン!
私は自身の頬を手のひらで叩いて気合を入れる。
何を弱気になっているのだ、私!
そもそも私は超人気VTuberになることを目指して活動を始めたのだ。そして、その目標に恥じないような結果も順調に残している。活動期間たった1ヶ月でライバースにスカウトされるほどに、だ。
そうだ! 私ってば十二分にすごいのだ!!
ライバースに連れてこられたということは、当然スカウトの返事について言及されるはず。
私には公平な立場で社内を観察し、正当に判断を下す権利がある!!
さあ、正面から対峙してやろうではないか、ライバース!!!
私は闘志を燃やして胸を張り、勇敢で偉大なる一歩を踏み出した!!
……のだが、その勇敢な第一歩はきうい姉によって無惨に引っ張り戻されてしまう。
走馬灯候補の偉大な場面を台無しにされてしまった私は、不満を抱えながらきうい姉の耳元に寄る。
「なんで止めるんですか! 今盛り上がっていたのに!」
「いやぁー、そのぉ……言いにくいんだけどさぁー?」
頬を膨らませる私に申し訳なさそうにしながら、彼女はスッとここから少し離れた路地裏の方を指差した。
「目的地はあっちでぇ……」
その瞬間、私の頭はフリーズした。
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