#60.安眠導入は加速する
ページをめくっても、特に光景は変わらなかった。
ある一つの単語が気色悪いほど綺麗に並べられているのだ。これ、本当にカンペが必要なのだろうか……
とは言っても、今回はその指定する単語が先程と違っていた。悪化していると言っていい。
「きも……」
思わず口からこぼれ落ちてしまう。
がしかし、これは悪口というわけでは無い。奇しくも指定された言葉がそれだったのだ。
そう、チカ監督の台本にはおびただしい数の『キモい』が記述されていた。
更には、数々の『キモい』の隣に括弧書きでどんな風に読むべきか事細かく指示が入っている。
「……あられちゃん、もしかしてこの子って結構ヤバい子?」
とうとうそれに気づいたきうい姉がそう耳打ちしてくる。
アルコールで脳がホルマリン漬けのきうい姉でも、この異常行動には引かざるを得ない様だ。
が、今更辞めるに辞められないので、きうい姉は少し戸惑いながらも収録を続ける。
「きーもっ♡」
「きもぉーい♡」
「……きっも」
「本っ当に気持ち悪い……」
おっと、気を抜くとついつい本音が出てしまう。なかなか難しい作業である。
その後も私達は夕日の指すアスファルトの上で収録を続け、やっと『キモい』連打の地獄を通り越した。
途中、ガムテープから漏れ出るほどの涎を垂らして目をハートにするチカの姿を目の当たりにした時は、関係を見直そうか真剣に悩んだ。
チカは涎でびしょ濡れになったガムテープを剥がして別のに取り替えると、ラストスパートと言わんばかりの勢いでページをめくる。
どうやら最後らしいそのページは、先程までとは少しばかり毛色が違っていた。
「チカおねえちゃーん、まだ起きてるのぉ〜?」
「こんなにおやすみ責めしてるのに♡ 強情だねぇ」
「こんなにかわいい妹にせめられてるのにねないなんて……わるい子、だよ?」
「お姉ちゃんがこんなに責めてあげてるのに寝ないなんてぇ〜……悪い子、だね」
「悪い子にはぁ……♡」
「お仕置きの……ちゅー♡」
……くぅあああああ!!!!! もう恥ずかしいなんて超えて怖い!!! なんてものを読ませんだぁ!!!!!
仮にも同級生……中学からの友達なのだ!
その相手によくここまで歪んだ性癖をさらけ出せるとは……むしろ尊敬にすら値する、かもしれない。
……いやそんなことはない! 普通にキモい! 軽蔑する!!
チカは期待の表情で私達を見つめる。
私も最早諦めて、チカの指示通りこれをやり遂げようと覚悟を決める。
が、きうい姉は違ったらしい。彼女は何かを企んでいるらしく、その場で静かにニヤリと笑った。
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