#59.夜の眠りは極上に
「コホン!」
きうい姉は鼻歌交じりにセッティングされたチカのスマホに顔を近づけると、咳払いをして喉を調整する。
そんなプロモードのきうい姉を前に目をキラキラと輝かせるチカの口には、この前のおはようボイスでの失態を活かしてガムテープが貼り付けられていた。
声を出さないように我慢する、という選択肢は最初から無いらしい。
彼女は例に漏れずマジックでカンペを作成すると、期待と興奮で手を震わせながら披露する。
「えーとなになに〜? 『きういちゃんとあられちゃんの姉妹Wおやすみ責め♡安眠ボイス』……?」
「なんで私も入ってるのよ!」
「まあまあいいじゃーん! 仲良くしよーよー妹ちゃん!」
「フン! フン!」
チカが息を荒くしてロックバンド並のヘドバンを繰り出すので、私は渋々承諾する。
……というか、タイトルが少しサディスティックなのが気になる。ひょっとすると以前の私の暴走に影響されたなんてことは……まあ、さすがにそれはないか。
チカがノートをめくると、そこには気持ち悪いほど丁寧な文字でセリフが書かれている。
さっきの短時間で台本を書き上げたのだろう。その才能をもっと違う場所に発揮すれば良いのだが……
きうい姉はもう一度咳払いをすると、先程までのガラガラ声とは打って変わって、信じられないほどの美声に豹変する。
「チカ、もう寝るのぉー? じゃあお姉ちゃんがぁ……おやすみ責めっ♡ してあげよっかぁー?」
いつものきうい姉と同一人物とは思えないその妖艶な声に、演者の私すらドキドキしてしまう。
更にはその切替能力も素晴らしい。
普段はだらしない姿と声で親近感を抱かせて、有料ボイスになると天性の声でファンを魅了する。
顧客のニーズに合わせた、と言えばビジネスチックになるが、自分のファンが求めているものをしっかりと理解して、臨機応変に立ち回りを変化させることにより、ファンの満足度を向上させている。これを常に行うのがどれだけ難しいことか。
私がきうい姉のプロ精神に感動していると、チカが不満げにノートを叩く。
私は焦ってカンペに目を向けると、湧き上がる羞恥心を抑えながらセリフを読む。
「じゃあ、あられもいっしょにしちゃおっかなぁー……おやすみ責め♡」
何だか如何わしく感じるのは気の所為だろうか。
チカが今にも限界化しそうな表情でページをめくると、そこには『おやすみ♡』の文字が無限に陳列されていた。
どうやら交互でおやすみと言って欲しいらしい。
あまりに気色の悪い台本に私は思わず軽蔑の目を向けるが、きうい姉は慣れているのか我先にと口を開く。
「おやすみっ♡」
私もそれに続く。
「おやすみ♡」
「おーやーすーみー♡」
「おやすみ♡」
「……お や す み ♡」
「おやすみ♡」
三回くらい繰り返していると、『あられちゃん、もっと感情乗せて』というお怒りのカンペが出た。
はあ……なんで私がこんなことを……
渋々ながらも、囁き声などを駆使して言葉に抑揚をつけてあげると、チカ監督は満面の笑みで喜び、上機嫌でまたページをめくった。
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