#57.彼女達は出会う
私が地面に落とした五枚の板は、それぞれ大きさも材質も大きく異なっていた。
石製のものから木目の施されたもの、白一色のシンプルなものまでバラエティに富んでいる。
しかし、その板達には一つの共通点が存在する。
それは、苗字が彫られているということだ。
「それって……俺達の家の表札……!?」
「ご名答よ」
冷ややかに返答する私の言葉に、彼らは呆然とする。
「な、何するつもりだぁ!?」
「別に何もしないわ……あなた達が良い子でいる限りはね」
私の行動の真意を汲み取ったらしい男子達は、全員揃って恐怖と悔しさの入り交じったような顔をする。
「「「お、覚えてろよぉ!!!!!」」」
泣きそうな声でそう言い残すと、彼らは一目散に走り去ってしまった。
「ふぅ……ざえにも感謝して欲しいものだわ」
私は仮面とマントを外して鞄の中にしまうと、事件を未然に防いだ刑事のような達成感に浸る。
スッキリとした気持ちでふと校舎の窓に目をやると、2階の廊下を歩くざえの姿が見えた。ここからは決して遠く無いし、窓も開かれている。
「おー……!」
声をかけようとするが、彼女の横に並ぶ女子の姿を見て咄嗟に止める。確か同じクラスの子だ。
私が陰で助けてやっていることもつゆ知らず、彼女はやっと友達を作ることが出来たようだ。今朝の心配も余計なお世話だったらしい。
「全く、都合のいいやつね」
彼女の進歩に安心しながらも、同時に置いていかれた感じがして腹が立ってきたので、少し突っぱねた言葉を吐き捨てた。
「あまちゃーーーん!!!」
声のする方に目を向けると、遠くから手をバタバタと振って近づいてくるチカの姿があった。
「チカ。ありがとうね」
私は落ちている表札を拾うと、私の元にたどり着いて慌ただしく息をしている彼女に礼を言う。
「いやぁー、あまちゃんから突然『この五人の表札を作ってくれ』って言われた時は驚いたよぉ〜」
勿論、この表札はレプリカである。実は特注でチカに製作を頼んでいたのだ。
彼女を通せばコネで特別に対応してくれるため、こういう時は何とも都合が良い。
彼らも家に帰れば真実に気がつくだろうが、あの表情から察するにたとえ偽物と分かったとしてもかなりの牽制になったはずだ。
「代金は支払うから、後で明細送っておいてね」
如何にも不満げな顔をするチカを放って表札のレプリカをカバンにしまうと、私は歩き出す。
「さ、帰りましょう」
「もー、都合いいなぁー」
私達は校門を出ると、お互いに隣に並んで歩く。何でかは知らないが、喜んで車道側を歩いているチカが口を開いた。
「それにしても、何でわざわざ表札ー? 他に脅せる方法もあったのにー。黄色いタコにでもなりたかったのー?」
「? 黄色いタコ? 何よそれ」
「えぇ!? あの名作を未履修っ!? 読んだ方がいいよぉー!? 人生変わるよぉー!?」
「人生変わるって……そんな大袈裟な──……!?」
ふと、目の前の通行人と目が合った。
フラフラと千鳥足で歩く女性。右手には缶ビール。
特に知り合いという訳でもない、赤の他人。
そのはずであるのに、何故か妙な感じがする。
それは相手も同様らしく、お互いにまじまじと見つめながら通り過ぎ、丁度すれ違った所でその女性が声を出した。
掠れているような、聞き覚えのあるガラガラ声。
「……もしかしてあられちゃん!?」
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