#55.ぼっちは辛いよ
5月下旬。
教室の窓から入る朝日もより暖かくなり、朝礼で連絡を伝える担任の額にも汗が垂れている。
「もうすぐ体育祭だ。前にプログラム表を置いとくから、各自取りに来てくれ。じゃあ一時間目の用意をするように」
そう言い残して担任が教室から立ち去ると、徐々にクラスメイトの話し声が教室を埋め尽くしていく。
ざえが転校して来てから、早くも一週間が経過した。
彼女は流石と言うべきか。その容姿と人となりであっという間にクラスに馴染み充実した高校生活を送っている……訳では無かった!!!
ぼっち。
"ぼっち"とは、独りぼっちを略した蔑称であり、集団の中で孤立している状態にある人のことを指す。
そして、ざえはまさにぼっち状態であった。
転校初日こそは彼女の席の周りに人だかりが出来ていたものの、今やその陰はなく、休み時間などは誰ともコミュニケーションを取らず自分の席にちょこんと座っている。
流石に見るに耐えないので、どこかしらのグループに入ってもらいたいのだが……何せ私も友達が少な──多くないので、上手くサポートしてやることが出来ない。
一方、チカは交友関係が広いので、ざえにチカを頼るよう言ってみたのだが……
「……別に、あんな人達興味無い」
と私の提案を跳ね除けてしまった。そっぽを向いた彼女の顔は、少し寂しそうに感じたのだが。
私がざえと行動しても良いのだが、ずっと一緒に居る訳にもいかないし、それだと根本的な問題解決にはならない。彼女がこの学校に来た理由が私である以上、責任を持ってざえに充実した学生生活を送らせてあげたい。
……と、まあそのための策略はおいおい考えるとして、今はそれよりも優先すべき問題が一つある。
私は教室の隅に目を当てる。
そこには4、5人の男子生徒が集まっており、皆がざえに視線を向けていた。
その男子グループは、ざえが転校してきた時からずっと彼女のことを妙に注視している。
初めはざえの美しい外見に反応しているのだろうと思っていたのだが……つい先日、そのグループがざえについて話しているところに偶然遭遇したのだ。決して盗み聞きできる機会を伺っていた訳では無い。
「……なあなあ、あれってやっぱり……こいつだよな?」
「あぁ、間違いねぇ。うぉ! 登録者結構いるぞ! 大物じゃん!!」
「たかが10万人の小物だろ」
「ざえちゃんを馬鹿にするんじゃねぇ!!」
「何? お前ファンなの? ……あぁ、そういえば最初に言い出したのお前だったな」
「どうする? 声かけてみる?」
「もしかしてこのこと隠してんのかな……ワンチャン脅せるかも? 金持ちっぽいし、上手くやれば……」
「ばっかお前! それは倫理的にまずいだろ!?」
「ざえちゃんを悲しませることは許さねぇぞ!!」
……と、非常にまずい事態になっているのである。
まあ、名前も声も配信中と何ら変わりないし、正体がバレる危険性も低くはないとは思っていたのだ。
とは言っても、ざえはまだまだ新参のVTuberであるし、知名度もそこまで高くは無いはずだ。まさかこんな早々にバレるとは思ってもいなかった。
……さて、少し念を押しに行ってやろうか。
私はチカから届いたメッセージに目を通すと、ニヤリと笑みを浮かべた。
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