#46.スパチャはライバーを殴るもの
少し時を戻して……チカとの登校から再開です。
霰姫 天、15歳。
頭脳明晰、才色兼備！ 偏差値83を誇り全国模試ではここ数年不動の1位！
それに加えて影でVTuberとして活動し、登録者数は約16万人！！
そんな、これからの日本社会を牽引するであろうスーパーエリートな私なのだが。
「あまちゃん！ ホレホレィ！！」
……私は今、チカに札束で殴られていた。
「ちょっとチカ！ 万札の束で殴るのはやめて！」
私が悲鳴をあげると、彼女は不満気な様子をする。
「だってあられちゃんの配信でスパチャ出来ないんだもん！」
「だからって私に直接現金渡さないでよ！！」
チカが抱える札束……軽く30万は超えているだろうか……高校生が気軽に手渡していい額ではない。
「スパチャ、ねー……」
スーパーチャット、略してスパチャ。
これはいわゆる投げ銭機能であり、配信中に自身が設定した金額で気軽に送ることが出来るスーパーなコメントだ。
使い方は人によって様々で、記念日やおめでたい日に感謝の言葉を送る人から、日々の配信のちょっとしたコメントに使う人もいる。
更に、VTuberのスーパーチャット文化は他ジャンルと比べて圧倒的に秀でており、敷居が非常に低い。その為、人気VTuberの配信ではスパチャが数多く飛び交う光景が日常茶飯事であり、それが収入の大部分を占めるVTuberも少なくない。
ライバーとリスナー、どちらもWINWINな正にスーパーな機能。それがスーパーチャットなのである！
「あまちゃん、なんでスパチャオンにしないのー？」
「うーん……タイミングを逃してしまったというか……」
スーパーチャットにはオンオフ機能があり、スパチャを受け取るか受け取らないか配信者が各自で設定できる。
「今更オンにしたら、明らかにお金貰いに来ました、って感じがしない？ あられはそういうガメツイキャラじゃないし、何より私もお金の為に配信やっているわけじゃないし……それに……」
正直……スパチャ読みが面倒くさい。
スパチャ読みとは、配信で送られたスパチャに感謝を表す為、配信の最後に名前とスパチャの内容を読み上げることである。
これが、実はかなり時間を割く作業であるのだ。
私のようなルーキーはまだしも、人気VTuberには百を超えるスパチャが一回の配信で送られることもしばしば。その結果、配信時間の半分がスパチャ読みだったなんてこともあるのだ。
それに時間を費やすのなら、配信の質を高めるのにより力を注ぎたいのが本心なのである。
と、チカが不思議そうな目でこちらを見ている。
「それに、どうしたの？」
「……いえ、なんでもないわ」
これはあまりに現実すぎる。チカには言わないでおこう……純粋な彼女には夢を見ていて欲しい。
「んぁー、スパチャ受け取ってくれないならしょうがないなぁー」
そうわざとらしい言い回しをしながら、彼女はポケットからスマホを取り出した。一体何を企んでいるのやら。
「チカ。私は何されても受け取らないわよ、そんな大金。あなたはもっとお金の大切さというものを──」
『おかえりっ！ おにいちゃん！！』
チカのスマホから漏れ出るすごーく聞き馴染みのある声に、学校へと歩く私の足が瞬時に止まる。
……このワンカットで分かる。何度も聞き返し、羞恥心で限界状態になりながらほぼ瀕死で録音した記憶が蘇る。
『おにいちゃんつかれてるのー？ ……あられがよしよししてあげるー！ ほら、よーしよーし──』
「ぴゃああああああああああああああ！！！！！！！！」
こ、これは私のシチュエーションボイス！！！！
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第四十六話読了ありがとうございます！
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