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#45.私は楽しい

 

 ピンポーン


 日差しが強くて、まだ衣替えしていない制服では少し暑苦しく感じるこの頃。

 私は窮屈な制服を身にまといながら、ある豪邸のインターホンを押した。


 少し間が空いてから、インターホン越しに元気な声が聞こえてくる。


「あ! あまちゃん!? 今行くねー!!」


 それから数分後。


 やっと遠くからこちらに走ってくるチカが見えてきた。

 彼女は全速力で私の元までたどり着くと、膝に手をついて必死に呼吸する。


「……お、おまたせー……」


「……庭が広いのも大変ね」


 チカはこの辺りでは有名の超富豪令嬢。

 屋敷にはたくさんの召使いが居て、お風呂は大浴場、庭にはプールとテニスコート、地下には大量のお宝が眠っている、らしい。


 全てチカ情報なのであてにはならないが、取り敢えず漫画に出てくるようなお金持ち一家であることは確かだろう。


「それじゃあ行きましょうか」


「うん!!!」


 チカとはあの時から今の今まで全く話していなかったので、もし怒っていたらどうしようかと心配していたが、思いのほか元気そうで少し安心した。


「あまちゃん、それにしても珍しいねー。突然来て一緒に登校しようだなんて」


「少し、伝えたいことがあって」


 今日はチカに感謝を伝えに来たのだ。

 私が今、VTuberを続けられているのは、紛れもなくチカのおかげである。


「その……チカ? ありがとう、本当に。感謝してもしきれないわ」


「んあー、いいってことよ! 困った時は助け合いでしょ?」


 チカがニコッと満面の笑みを浮かべるので、それにつられて私も微笑む。

 良い友達を持ったな、としみじみと感じられた。


「チカ、私が甘姫あられっていつから気づいてたの?」


「んー、初配信の時かな? あまちゃん、結構声隠せてないよ」


「え!? そうなの!?」


 あられとあま()で完全に声を演じ分けていたはずなのだが……


 しかし、ならばチカは私があられだとずっと分かっていたという訳だ。

 振り返ってみると、入学式以降チカが私に甘姫あられについて話したことは、あの件の時を除いて一度も無かった。それは、私のことを考慮してあえて触れなかったのかもしれない。


「それにしてもあまちゃんがあんな()()()()だったなんて、中学の頃は気づかなかったよー! 可愛いとこあるじゃーん!」


 ……ん?


「いや、全部演技よ? 私があんな初歩的なミスばかりする訳ないじゃない」


「……え? えええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!??????」


 いや、それは気づいてなかったんかい!

 鋭いのか疎いのかよく分からないやつだ。


「うそ……そんなわけない……私のあられたんが……そんなぁ……」


 さっきの笑顔とは打って変わって絶望の表情をする。やはりこの秘密は、私がVTuber活動を続ける上で意地でも隠し通さねばならない秘密のようだ。

 それにしてもこんな顔をされると、何だかこちらが悪いことをしたような気になってしまう。


 ……まあ、チカには助けて貰ったし、少し励ますくらいなら良いか……


「チカちゃん!」


 私は声を"あられ"に切り替える。


「いつもおうえんありがとー!! チカのおかげでまいにちとってもたのしいよー! これからもよろしくねー!!!」


「……う゛……う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」


 えぇ!? 今度は号泣し始めたっ!?


「あられたん……最高だよお゛!! もう情緒がおかしくなっちゃうよお゛!!!!!!!!」


 これは感情が豊かとかそんなレベルを通り越して、何かしらの狂気を感じるのだが……いつかチカに刺し殺されるかもしれない……


 なんて言いつつも、チカが泣いてまで喜んでくれるのはとても嬉しくて、その過剰反応に何だか有名人になった気分にさえなる。

 やっぱり、VTuberは楽しい。


 すると、一通り泣き止んだチカが黙ってこちらをじっと見てくる。


「……あのぉサインとかってぇ……貰えたり?」


「しません」


「で、ですよねー……」


 有名人気分は味わえたが、まだまだ人気VTuberには程遠い。

 新生甘姫あられの伝説は、ここからまた始まるのだ!!!


 現在の登録者数:168,049人(5,174人up⤴︎︎︎)




 キーンコーンカーンコーン


 休み時間の終わりと朝礼の始まりを同時に告げるチャイムが、教室内に響く。


「今日は転校生を紹介するぞー」


 担任のその一言で、一旦は静かになっていた教室が瞬く間に騒がしくなる。


 ガラガラ……と扉が開く。転校生の登場で、教室はより一層賑やかになる。


「可愛い……!」


「美人だね……」


「あれ? どっかで見た気が……」


 隣前後とヒソヒソ話す声が教室中に溢れるが、先生の自己紹介の合図でまた静寂に包まれた。


 彼女はチョークを手に取って、美しい字で自身の名前を黒板に書きあげると、教室全体を一通り見渡してから口を開けた。


「七歩之 才です。よろしくお願い致します」

 

ご愛読ありがとうございました!! まだ終わりませんが。

ここで一旦区切りになりまして、次回からは新章という形で進めていきたいと思っております!

振り返ると少しシリアス過ぎたかなー……なんて思ってしまいますが(ジャンルはコメディーなのに!!)、あられ/あま が活動する上で根幹となる"感情"に気づくのはやはりこの物語には必要かなと思い、取り入れさせて頂きました。

理論的に行動する人物の根幹が感情って、何か良くないですか!?

まあ、結構後悔もありまして、途中説明下手くそでしたねーすみません。

思う所もあると思いますが……どうかお手柔らかに感想で伝えてくれるとめちゃくちゃ嬉しいです!!!

ブクマ&評価、いいねもよろしくお願いします!


長くなりましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました!

まだまだ続けていきたいと思いますので、どうか引き続きよろしくお願いします!

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