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38.この日、私はVTuberをやめた

 

 プルルルル プルルルル ……プツ


 音が途切れると同時に『チカ』と『不在着信』の文字が画面に表示される。


 午後5時。

 ゴールデンウィーク最終日だと言うのに、私はベッドに寝転がったまま今日を終えようとしていた。


 このままじゃいかんと意を決して起き上がると、近くのテーブルに置いてある飲みかけのインスタントコーヒーに手を伸ばした。


 視界にちらりと、もう二度と使わないであろうマイクが映り込む。


 きうい姉には感謝する予定だった。今日が振替休日でなかったら。

 あの時、きうい姉に事務所のマネージャーからお叱りの電話が来たことで話は転換され、なかったこと……とはいかないもののそこまで注目はされなくなった。


 コーヒーカップを置いて代わりにスマホを手に取ると、山積みの不在着信通知を全てトラッシュして、動画配信サイトを開く。


  ホームページにあるおすすめ動画の欄には、5月5日の甘姫あられの配信を"切り抜いた"動画がずらっと並んでいた。

 どれもこれも10万回再生は軽く突破し、人気動画に至ってはミリオンを超えているものも見受けられる。


 大体の切り抜きは前半に嘔吐事件、後半に例の件と2段構成になっていた。どうやらきうい姉の集客能力と嘔吐のインパクトが合わさって、こんな再生数大量生産工場のようになってしまったのだろう。


 あわよくばその嘔吐事件の陰に隠れたかったが……デビュー時の配信切り忘れやデビュー1ヶ月記念配信で注目されたこともあり、まとめ系動画なども含めると寧ろ、甘姫あられの件への動画の方が多い気さえする。


 そのうちの一つのショート動画を開いてみる。と、関わったことの無いどこぞのVTuberが嬉々として私の件を報告している。


『この娘、甘姫あられちゃん! 人気沸騰中の話題の"ぽんこつ"系VTuber! なんだけどぉ……今、"ぽんこつ演技疑惑"で大炎上中なんだよねーーー!』


 どうやら私は今、大炎上中らしい。

 動画サイトを閉じると、スマホを放っぽってまたベッドに横になる。


 まあつまるところ、私は七歩之才に敗北した。JKとして、天才として、VTuberとして。


 全ての面で私は彼女に凌駕され、今はこんな悲惨な状態。無論私の登録者数は減少し、代わりにざえの登録者数は爆増している。


 やめよう。


 ここから立て直すことなど不可能。こうなるリスクは理解した上で活動していたのだ。これはざえのせいではなく、油断して墓穴を掘った私の失敗。ざえが指摘せずとも、アーカイブ公開後に視聴者の誰かが指摘しない保証は無い。


 やめた後のことはなんら問題ない。

 VTuberが公開しているのは声のみ。引退後に私生活に支障をきたすようなことは殆ど無いだろう。


 そう、何も問題は……ないのだ。


 5月6日17時15分。


 私──甘姫あられは、この日VTuberをやめた。


 現在の登録者数:---


【宣伝】《新月が綺麗ですね。》

切ない感じのが書きたくなって、ちょっとした短編を公開しました。もし良ければご一読下さい!

***

第三十八話読了ありがとうございます!


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