#28.嵐がやって来る
蛇に睨まれた蛙。
蛙が天敵の蛇と出会った際に動くことすら出来ない状態のことで、体がすくんでしまうことを意味する。
まあ、今の状況は美容師さんに身バレしかけてるVTuber、なのだが。
『あぁそうだ。甘姫 あられちゃんに似てるような……』の発言から膠着状態が数秒続いている。
本来なら相槌やら何やらを入れて、冗談として受け取っている風に見せるべきなのだが。
先程のことわざ如く、動けない……!
美容師さんが天敵な訳では無いが、命を握られているのは同じ。この危機的状況に陥ると、何か言おうとしても口がパクパクするくらいで言葉が出ない。
しかし、この沈黙が続けば続くほど美容師さんの言葉が本当っぽくなってしまう!!! はやく何か言わないと──
……いや、もういっそバラしてもいいのでは?
長年の付き合いの彼女は(これまでに私が築いてきた薄い人間関係の中では)かなり親しい部類だ。誰々に声が似ているとピンポイントに当てられてもはや誤魔化すのも苦しい状況であるし、このままダラダラと追い詰められるくらいならパンパカパーンと勢い良く言っちゃった方が──
いや駄目だ! そういえば私とあられでキャラが全然違うんだった!!
そうだ、美容師さんとは長い付き合いだからこそ私の頭が良いのは勿論知られている。そんな私が甘姫 あられだと名乗った日には、がっかりされて拡散されて炎上引退まっしぐら!
……あれ? 私とあられでキャラが正反対なのだから、もしかすると……
美容師さんは私のコンマ数秒の思考の間ずっと疑いの表情をしていたが、突然ぱっと明るくなり口を開く。
「一瞬、あまさんが甘姫 あられちゃんなのかなって結構本気で疑いましたけど、そんなわけないですね。真逆でしたーあはは」
何が、とまでは言わないのに、優しさを感じた。と同時に思わず安堵のため息をついてしまう。今回ばかりは結構危なかった。というか日々危ないを更新している気がする。
というわけでとりあえず身バレは無事回避出来たのだが……私のVTuberライフは、こんなに尺を取った挙句チカの時と同じオチで終わるような、つまらないものではなかった。
「そういえば、あられちゃんの他に最近ハマりだした子がいるんですよねー」
嵐というものは、予測不可能に進路を変えて、一見関係の無い所から私達に近づいていくものだ。
「まだデビューして1ヶ月も経ってないんですけど、かなりの人気でー」
美容師さんが私に向けてきたスマホ画面には、黒色の髪に褐色の肌、緑色の目、それらと見事にマッチした純白の制服──そんな女性のVTuberが佇んでいた。
「もしかしたらあまさんも親近感湧くかもしれません!」
嫌な予感と、それを上回る好奇心が私の中で湧き出てくる。
「……どんなVTuberさんなんですか?」
「この子はねー」
少し間を空けてから、美容師さんはこう放った。
「天才系VTuberなの!」
嵐が、やって来る。
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