#23.天才は仮面を外す
ティロンティロン ティロンティロン
「ん?」
PCから流れるこの少し変わった音楽は、配信者用のアカウント《甘姫 あられ》でログインしている通話アプリでの着信音だ。
先程のきういとのコラボ配信も、この通話アプリで行っていた。という訳で相手は彼女だろう。
……ブチッ
なんか色々と面倒になりそうだったので切ってみた。
……いや、今のはまずかったか。
ティロンティロン ティロンティロン ガチャ
「もうー!! なんで1回切ったのー!?」
彼女の怒号のような悲鳴のような声が部屋の中に響く。
「す、すみません! なんかいろいろとパニックになっちゃって!!」
危ない危ない。やはり脳が限界状態のようだ。
コメント
:草
:パニックで切るって何だよwww
:気づいて駆けつけて来てくれたのか!
:草
:さすがきうい姉! やる時はやる女よ!!
:あられちゃん相当疲れてそうだな
:ゆっくり休めあられ
「今日はありがとねー! 応援してるからこれからも頑張ってにゃ〜。あ、それと──」
「またまたぁー、あられにはおせじは効きませんよー?」
フッと、少しの間静寂ができた。ゴトゴト……と冷蔵庫の雑音が耳に入るくらいには静かになる。
「……いや、お世辞じゃないよ」
少し、空気の変わった感じがして、私は半分無意識に背筋を伸ばす。
「本当に頑張って欲しいと思ってるんだー。私はよく勢いのある新人さんとコラボさせて貰ってるんだけどさ。いつも、新人さん達は私と話していることにどこか満足してるって感じがして」
勿論自惚れてるわけじゃないよ、と彼女は慌てて付け足す。
「酔っぱらいの戯れ言だと思って聞いて欲しいんだけどさ。新人さんはね、私にとても丁寧に接してくれるんだ。きういさん、きういさんって。まるで夢でも叶ったみたいに」
裏の顔なんてありそうにない、真っ直ぐで少し寂しそうな声色だ。
「それはそれで嬉しいんだけどさ。もっと……何だろう……目指すべきはそこじゃないよ……って、私とコラボするのが当たり前になるくらい……何だろ、言葉にするの難しいね。ちょっと話長いかな?」
いいえ、とだけ伝える。
「巷では"新人潰し"なんて言われて。そりゃあ酷いこと書かれたりしたよ? それで、新人さんとコラボするのももうやめにしようかなって思ってた」
チクリ、とだけ胸が痛む。
「でも……今日はあられちゃんと話せてとっっっても嬉しかったんだぁー! キミは、ぽんこつでおっちょこちょいで、突然踊り始めた時はほんとお腹が裂けるかと思ったけど……フブッ」
コメント
:いい話の途中に思い出し笑いやめてもろてw
:これきうい姉も気づいてない説ある?
:きうい姉キャラ崩壊だろw
:アンチは何でもかんでも叩きたがるからな
:あられの腕ぶんぶんは笑ったwww
「あられちゃんの声にはさ、情熱が乗ってるって思ったんだ。私、結構人の声とかに敏感だから、そういうの伝わるんだよ? あられちゃんは、私なんて眼中に無いって声してたなぁー」
「そ、そんなことないですよ!!!」
「ううん。これは良い意味だから。だからね、本気で応援してる。それに私も燃えてきちゃったしね、あられちゃんの声聞いてると!」
私の中の鬼透 きういの印象がペリペリと剥がれ落ちて、新しく更新されていく。
「……思ったよりも良い人みたいですね」
「ちょっとー! 私のことどう思ってたのーー!」
ブツブツと不満を漏らすきういの声を聴きながら、私は考える。何で私は顔も知らない相手なのに、こんなに話していて安心するのだろうか。
この人とはずっと仲良くしていたい、なんて変なことを思ってしまうのだろうか。
この欲望は、人気になるためのコネ作りなのだろうか。それとも、自分の本心から生まれてきたのだろうか。
私はあの日から、無意識に人を拒絶しているはずなのに。突然ふと消えてしまいそうで、いなくなるなら初めからいない方がいい、と。心の奥底でそう思っている、そのはずなのに。
私の私への分析もまた、ペリペリと剥がれ落ちていく。
彼女になら、甘姫 あられの仮面を取って話したい、と思えた。
「きういさん、私実は──」
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最近、しゅんとした話が多いような……
いや、甘姫あられは"成長コンテンツ"ですから!
これくらいはセーフ……?
***
第二十三話読了ありがとうございます!
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