#19.踊ってない夜を知らない
私がそのボタンをクリックしたと同時に、突然、甘姫あられの首が90度回った。
訪れる沈黙。放送事故? いや違う。
その瞬間、甘姫あられは荒ぶり始める。
首は90度に曲がっていながら顔は満面の笑み。それでいて両腕を伸ばしたまま高速回転させ始めた。顔面を中心に公転する両腕。散開する白銀の長髪。
その様子はまるで……"散りゆく桜"!!!
「ぶはっふぁおっ!! な、なに急に〜! ぶ……ふぶぁ!!」
どうやら配信画面を開いていたらしいきういが口に含んだ酒を吹き出して笑い転げる。
「え! なにこれーー!!! と、止めてええええ!!!!」
コメント
:草すぎるwwww
:なんだよこれwwwwww
:絵面やばwww
:草草草
:大草原www
:やばすぎwww
:なんでこんなこと起こるんだよwww
:草www
:ミラクルwww
:やっぱ持ってんなぁwww
:神回だぞー!!!www
そう、私の強みは、高クオリティな配信を安定して届けることじゃない。
何も持っていない、配信の女神に愛されたことの無い私が、唯一誇示できる強み。
それは、偶然を必然に起こすこと!!!
これは夜な夜なプログラムして準備した、言わば踊るマリオネット。いつも凛として佇む甘姫あられに突然バグのような挙動をさせることで、特大の笑いを誘うという秘密兵器だ。
しかし、これはあくまで偶然に起きた正体不明のバグであり、使用できるのは1度だけだ。それでも今ここで消費する価値がある。この何万人の視聴者を一斉に私のファンへと引き込める、とてつもないチャンスだからだ!
「ちょっ、ちょっとぶふぁっあられちゃん……いひいっそれやめてぇーふははぶふぉ!!!」
コメント
:笑い方よwww
:なんて品のない笑い方www
:吹き出してるww
:ぶふぉ頂きました!
:草
:酒が飛ぶぞwww
くっ……ここまでしても話題を持っていかれてしまう! ならば!
今度は更に両腕の回転速度を上げ、それに加えて全体を七色に変色させる。
「どっひゃあぶははぁらひゅうぇほぉうぅ!!!!!」
「ど、どうなってるのこれーー!!!」
「もぉ……もうやめてぇえ! お腹がぁちぎれるうぅ!!!」
コメント
:草
:草
:草
:草
:草
:草
しばらくの間、コメント欄は草の一文字で埋まり続けていた。
「いやぁ、笑いすぎてほんとに死ぬかと思ったよー……」
「すみません!!! じぶんでもなにがなにやら……」
コメント
:面白かったw
:これは新たな原石を見つけてしまったようだ
:俺は前からあられならやれると思ってたぞ(?)
:面白すぎwww
:紛うことなき神回w
:新たなスター誕生w
というわけで、何とかきういに一矢報いることが出来たようだった。
……のだが、私はどうやらとことん配信の女神に嫌われているらしい。
「……もう、さっきから笑い転げてどうしたの?」
いや、むしろここまでくれば好かれているのだろうか。
PCが伝える通話音から聞こえたその声には、よく聞き覚えがある。
「ルナっちー!? もう来ちゃったのー? 今ねーすっごい面白いことがあってねー──」
「ええ、知っているわ。さっきまで配信を見ていたから。甘姫あられちゃん、だったかしら?」
その声の主は、私が聞き間違えていない限り──現在のVTuber界を牽引する、頂点の中の頂点!
ライバース1期生兼株式会社ラナンキュラス社長。
VTuber"四強"が1人。
「星乃 ルナよ。よろしくね」
生ける"伝説"だ。
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***
第十九話読了ありがとうございます!
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