#15.天才は電脳世界で輝く
4月24日、午後9時。
「あ……あー……んんっ」
青白い光を放つPC。
少し扱いに慣れてきたマイク。
次元の壁を越えて私と踊る、電脳世界の少女。
緊張して、水を1杯。
こうしていると、初配信を思い出す。
あれから一ヶ月。たかが一ヶ月。
全てが変わったようで、はたまた何も変わっていない気すらする。
VTuberに興味を持ったのは、いつ頃だったろうか。
私は小さい頃から勉強が出来たから、どこに行っても褒められて、褒められて、褒められて──気がつくと一番に褒めて欲しい人は居なくなっていて。
それからはただ勉強し続けて、気は紛れたけど何か見失っているような感じもして、なぜか寂しかった。
そんな時に、チカが勧めてきたVTuberを見て、ふとやってみようと思った。
それから結構時間が経ったけど、色々と準備して、研究して、機材を探したり、発声練習してみたり……
なんでやってみようと思ったのだろう。もう忘れてしまった。きっと大した理由じゃない。
勉強のように、気の紛れる玩具のようなものが欲しかっただけ。
私の考えは、正しかっただろうか。
いいえ、きっと本気の人達からすれば、笑われるような不純な動機。
私の行動は、正しかっただろうか。
いいえ、きっともっと勉強して安定した人生を選択するのが最適な行動。
私の挑戦は、勇気は、努力は、今までの人生は、正しいものだっただろうか。
いいえ、いいえ、いいえ、いいえ──
じゃあ……
私は、どうやったら正しくあれるのだろうか。
正しいなんて、どうでもいい。
だって、今、私はこんなに"楽しい"のだから。
コメント
:楽しみ!
:きちゃぁーー!!
:デビュー1ヶ月おめでとう!!
:おめーー!!
:おめでとう!!
:おめでとー!!!
待機画面に映る数々のコメントが、私にそう思わせてくれる。彼らは、顔も姿も見えないただの文字だけど、顔も姿も見えない私を応援してくれる。きっと彼らとなら──いや、何でもない。
正しいよりも、楽しい。
今はそれで十分だ。
現実逃避と笑われても、無駄な時間と罵られても。今の私なら、笑い返せる。
私の考えの、行動の、挑戦の、勇気の、努力の──人生の答え合わせは、とりあえず後回しにしてみよう。
配信画面は待機中のまま、段々と画面を暗くさせていく。
そして、画面は移る。薄暗い中、見えてくるのは──星空。
コメント
:暗くなった!
:始まるか?
:映画みてぇw
:すげぇ(小並感)
:星?
:星だ!
:綺麗……
:なんかもう泣けてきたw
そっとミュートを解除する。
んなあぁミュート!……なんて撮れ高は、今日はお預け。
すぅーっと、息を吸い込む。
この日を作ってくれた、自分に、チカに、父に、母に、叔父に、叔母に、私を支えてくれた色んな人に。そして、これから私を支えてくれる皆に。
ありがとう。私は今、最高に楽しい。
そんな気持ちを乗せて、私は──
「だって 僕は 星 だ か ら 」
コメント
:うわやば
:うっま
:泣きそう
:選曲神
:ヤバすぎる
:声きれい
:いつもとは別人みたい
:最高
:泣いちゃう
宇宙の中で、地球の中で、日本の中で、とある家の中で、部屋の中で、画面の中で、星の中で、輝く少女。
「Stellar Stellar 」
私の──甘姫あられのLIVEが、始まった。
いやなんか最終回みたいになってるけど!
まだまだ甘姫あられの伝説は続くのだから! むしろやっとスタートラインに立てただけだから!
そして、満足してはいられない。なぜならこの後、私のこれからの配信者人生を決めるような、大きな"試練"──いや"好機"が到来するのだから。
現在の登録者数:122,987人(2,951人up⤴︎︎︎)
今回は、節目の回でございます。
初の記念配信は歌枠だろうと決めていたのですが、あられが何を歌うかは書き始めるまで決まっていませんでした。(何ならその辺はぼかそうと思っていました )
ですが、いざ描写していくと自然と頭の中で映像が出来上がり、気がつくとこの曲を彼女が歌っておりました。(この曲は、とあるVTuberさんのものです)
本来、VTuberについてあまり詳しくない人にも楽しんでお読み頂きたい為、こういう具体的なものは出来るだけ出さない方がと思っているのですが(カラオケ回も悩みました)、個人的にはこれはこれで満足しております。
この小説(と言っていいかは分かりませんが)を通して、ここで触れたVTuberさんやそのほかのVTuberさんなどに興味を持って頂けるだけでも光栄でございます。
長々と語ってしまいましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。まだ終わりませんけどね!




