#173.今宵はパーリナイ
星乃 ルナが活動休止になってから数ヶ月……
枠が空いていたライバースの次のリーダーについては、ルナが別日にスタッフ達と協議した結果、満場一致で火火 スピカに決定したらしい。
それを告げられた時、スピカ本人は相当アタフタしていたが、内心は嬉しいようで顔に笑みが零れていた。
ライバースのリーダーの役割は、主にライブステージの合同練習で皆をまとめ上げたり、士気を上げたりすることだ。前者は心許ないが……後者の方は、スピカと練習していれば彼女の意識の高さに否応なく感化してしまうだろうし、何ら問題なさそうだ。
一方私はn回の会議を経て、今日ようやく正式に事務所"ゆにばーす"をオープンすることが決まった。
あぁ、これまで長かった……この日の為に一体どれだけの雑務をこなしたことか……
そしてこれから"ゆにばーす"の決め事の最終チェックと、事務所オープンを祝うパーティー(きうい姉主催)が行われるらしい。
ちなみにだが、私達が今いるのは株式会社ラナンキュラスのオフィスの一室である。このパーティーの為にわざわざ借りてきたらしい。
というかそもそも、きうい姉はライバース所属のままなのに何でパーティーを主催しているのだ……? まぁ別に良いけれども。
「あま、オレンジジュースとリンゴジュースどっちがいい?」
突如2Lのペットボトルを両手に現れたざえに、私は感謝の言葉を口にしながらオレンジの方を指さす。
私の事務所"ゆにばーす"に加入してもらうのは、私──甘姫 あられと、この七歩之 才、そして……
「私は霧神 あやね……私は霧神 あやね……」
自分自身に暗示をかけている中野 あやね改め、霧神 あやね である。
実はこの人、私の行きつけ美容院のキュート美容師なのである。中々に声が良いので、自分でVTuber事務所を設立した時は勧誘しようと常々思っていたのだ。
最初の反応は芳しくなく説得するのにかなり時間がかかったが、最後は甘姫 あられの限定直筆グッズの譲渡で手を打ってくれた。
ちなみに彼女は美容師の仕事を続けながら配信を行うことになっている。仕事と配信の両立……まさに"ゆにばーす"色の人材である!
まぁ正直のところ、三人だけでは心許ないのだが……オーディションなどは正式に活動を開始してから行うという方針に決まったので、それまでの辛抱である。
と、私は注がれたオレンジジュースをゴクゴクと堪能しながら、異常なテンションで大はしゃぎしている彼女の方を伺う。
「さぁみなさぁーん!! 今宵はパーティー!!! 盛り上がってまいりましょおーーー───いてっ!!」
私は彼女の後頭部をチョップして、その半暴走状態を停止させる。
「いたいよぉ! なにすんのぉあまちゃあん!!」
「なんでいるのよ、チカ」
私の冷えきった質問にチカは信じられないという顔をする。
「何でって!? そりゃ友達のおめでたい日を祝うためだよぉ!!!!!」
「んじゃ、パーティーの開会式といきますかぁ!!」
一人だけ缶ビールをプシュッと開けるきうい姉の合図で、空間は静寂に包まれた。
きうい姉が缶ビールを上に持ち上げるのを見て、皆が各々の持つドリンクを同じように掲げる。
「さぁあられちゃん、乾杯の音頭をどうぞっ!!」
「えっ! 私!?」
まずい……もう飲んじゃった……
すっかり空になった右手のコップを見つめていると、すかさずきうい姉が注いでくれる。
「当然でしょ〜。今日の主役はあられちゃんなんだからぁ〜」
「……じゃあ……えっと……"ゆにばーす"の開設の祝福と、今後の発展を祈念いたしまして……乾杯っ!!」
「「「かんぱぁーいっ!!!」」」
こうして"ゆにばーす"メンバーときうい姉、そしてチカというよく分からないメンツでのお祝いパーティーが始まった。
「師匠、あの時はありがとうございました」
「んぇ〜? あの時ぃ〜? んあぁ、いいってことよぉ大したことしてないし〜」
パーティーが始まって数時間……完全に出来上がってしまったきうい姉がボケっとした顔でざえに返答している。
そんなトンチンカンな彼女らは放っておいて、私は初対面なはずなのにもう仲良く談笑しているチカ&あやねペアに体を寄せた。
「チカ、あなた声ガラガラね」
「え゛? ぞんなごどないよぉー」
「ぞんなごどないでずよねー」
「あやねさんまで!?」
パーティーの途中、『事務所にいたので立ち寄ってみた』という好奇心旺盛なライバー達が有難いことに複数名いて、彼女らが登場する度オフィスに奇声が響き渡っていたのは知っていたのだが……まさかチカだけでなくあやねさんも限界化していたとは。そういえばあやねさんもVTuberオタクだったのをすっかり忘れていた。
私が苦笑していると、チカがいつもより大人びた顔をして話しかけてくる。
「あまちゃん! 事務所設立おめでとう!! 凄いよ!!」
「ふふ、ありがとう」
その私の返事に不満があったのか何なのか……彼女の表情がふと曇る。
「でもぉ……あまちゃんはほんと凄いよね! VTuber始めてすぐに人気出て、ライバースにスカウトされて、挙句の果てに事務所設立って……なんだか、遠くへ行っちゃったみたい……!!」
その寂しそうな顔を見て、私は彼女の表情の真意を理解する、と共に私も少し寂しくなってしまった。
……、よし。
私は一瞬だけ感傷に浸ると、次の瞬間にはそんな自分の気持ちを引っぱたいて、あえていつものチカのような言い回しで元気良く言葉を口に出す。
「何言ってるの。私はずっとチカの傍にいるわ。あなたは、私の大事なお友達第一号なんだから」
「……っ!!! あっ、あまちゃあーーーんっ♡♡♡♡!!!!」
「ちょっと! 抱きつかないでよっ!!」
私がどこに行っても、チカがなにになっても、決して変わらない。私にとって、チカはずっと大切な友達なのだ。
「微笑ましいですなぁ、ねー、ざえちゃん」
「ずるい……二人だけ……」
「あらあらぁ〜♡」
結局、このパーティーは夜遅くまで続くことになった。
まぁ、次の配信のネタにできるから良いけれど、ね。
次回、最高潮!!!
***
第百七十三話読了ありがとうございます!
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