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#171.いてくれるだけでいい

 

「卒業のこと、やっぱり取り消しできませんか……?」


 あられさんから出た唐突な言葉に、私は思わず狼狽えてしまう。またきういに弄られやしないかと彼女の方を見てみると、彼女は少し儚げな様子でじっとあられさんのことを見つめていた。


「……あられさん、それはさっき説明したはずでしょう。海外進出が決まって、私は今までの比じゃないくらい忙しくなる。流石に配信と両立は──」


「卒業じゃなくてもいいじゃないですか!!」


 普段落ち着いている彼女の大きな声に、私はまたもや動揺し、たじろいでしまった。いや、この動揺は、もしや痛い所をつかれたと感じてしまったからだろうか。


「……別に、卒業じゃなくてもいいじゃないですか……私は、ルナさんと知り合ってそこまで長くないし、それに何かあれば直接会って話が出来ますから、あのライブを観た時は特に引き止めようとは思いませんでした。でも……」


 彼女は慎重に言葉を選びながら、それらを綺麗に紡いでみせる。


「さっきの何気ない会話の一時とか、ルナさんの楽しそうな姿を観た時……何故かふと、リスナーの気持ちになったんです。あなたのことを応援してきたリスナー達は、どう思うのか、って。だって……世界で一番あなたを愛しているはずのリスナーが、こんな唐突に別れを告げられてハイサヨナラ二度と会えませんって、そんなの……そんなのってあんまりですよ!」


 社長室に響く彼女の声に、私の心が強く揺れる。

 私だって……という思いは、必死に奥へとしまう。

 これは決断したことだ。今更変える訳には──


「活動休止じゃ、なんでダメなんですか?」


 ドクン。と、心臓が震える音がした。


「それじゃあ……ダメなのよ」


 彼女の誠意を無下にしないよう、私も慎重に繊細に言葉を紡ぐ。


「これからライバースが大きくなるにつれて、社長である私の忙しさは増えていく。だから、もし一度この活動をやめてしまえば、私はきっと、二度と戻れない」


「そんなの理由になってませ──」


「私が復帰すれば! それは、ライバースの衰退を意味するわ。私がもう一度配信できるようになった時は……ライバースが何らかのことで大きな失敗をした時よ! それを見据えて卒業じゃなく活動休止を選ぶなんて、社長の私がそんなこと出来るわけないでしょう!?」


 私の反論にあられさんは少しだけ沈黙して、そして今度は呟くように声を出した。


「VTuberの卒業は、死です」


「……そんな、大袈裟よ」


「本当です! リスナーは、星乃 ルナにはもう二度と会えなくなるんです。今もどこかで元気でやってる──なんて戯言! それが見えなくなった時は、死も同然なんです!」


 彼女は鼻が詰まったような声で、絞り出すように言葉を吐いた。


「……大好きな人が急に死んでしまうのは、耐え難い苦しみです。たとえ昏睡状態でも……ずっと眠っていても……生きてくれるだけで……()()()()()()()()()()()()()()()()……」


「……あられさん……」


 いてくれるだけでいい。

 その言葉は、15歳の少女が口にするにしては余りにも重く、そして妙に現実味を帯びた言葉だった。


***

第百七十一話読了ありがとうございます!


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