#168.命名は難航する
きうい姉の顔色もようやく正常に戻り、私の興奮も落ち着いたところで、ルナは口を開いた。
「ところであられさん。事務所の名前はもう決まっているの?」
「名前ですか、そういえば考えてませんでした。どうしましょうか……」
実は私、名前を付けるのが若干苦手だ。
別に何も思いつかないとかでは無いのだが、明確な正解が無く善し悪しが個人のセンスに左右されやすい為、思いついても『コレよりもっと良いのあるかも……』と深く考えてしまうのである。
だから、VTuberを始める際の名前もかなり悩んで、最終的には本名 霰姫 天 の逆さ読みという妥協ラインで落ち着いた。
事務所の名前……うーん、どうしようか……
どうせ自分で命名するのなら、完成度の高いものにしたい。が、ネーミングの完成度とは一体何なのか……カッコイイか? かわいいか? それとも言葉を上手くかけているか? 何が判断基準になるのだろう……
私がうーんと頭を悩ませていると、それを見かねてきうい姉が口を開いた。
「もし命名に困ってるならさぁ、目の前の星乃 ルナ大先生に相談することをおすすめするよぉ〜? ルナっち、命名スペシャリストだから! ネーミングセンス強強だよぉ〜」
「えっ、そうなんですか?」
「……えぇと、まぁ普通かしら……?」
私が希望の眼差しでルナを見つめると、彼女は遠慮がちに返答する。
「一応、今まで色々なものに名前をつけてきたから、経験は豊富よ? ラナンキュラスとかライバースとか私がつけたものだし……」
「私の鬼透 きういって名前も、ルナっちが決めてくれたしね〜」
「そうなんですか!? そのセンスご教授下さい!!」
私がそうへりくだると、ルナは少し困った顔をしながら、カップに追加のコーヒーを注いだ。
「ラナンキュラスとかライバースって、そういえばどういう由来なんですか?」
「大したものじゃないわよ? ラナンキュラスは花言葉の『晴れやかな魅力』っていうのが気に入って……あと、ライバースは"ライバー"と"メタバース"をかけたんだけど……って、なんかこれ恥ずかしくなってきたわ、早急にやめましょう!」
「ギャグの解説した時みたいな雰囲気になっちゃったねぇ〜」
すかさず弄るきうい姉をよそに、私はまたも頭をぐにゃぐにゃし始める。
「いやぁ……結構単純ですけど、スって頭に入ってくる名前なんですよね……なんか、ライバースの"ライバース"感が凄いというか。それしか無いって感じの名前で……」
「そんなことないわよ、あられさん。ライバースなんて、最初はイマイチ感半端なかったのよ? でも、活動を続けていく内にしっくり来るようになったというか……所詮、名前なんてただの器にしか過ぎないのよ。大事なのは、そこにどんな意味を詰めていくかってこと」
そう言い放つと、彼女はグイッとコーヒーを飲み干した。
「うおぉ……ルナさん、なんか達人感出ててカッコいいですね……!」
「ふふ、そうかしら?」
「あっ! ルナっちが珍しく調子に乗ってるぅ〜!!!!」
「の、乗ってないわよっ!!!」
そこからギャーギャーと騒ぎ始める二人に私は思わず笑みを零す。
こうして言い争っている二人を見ていると、何だか穏やかな気持ちになる。微笑ましいというか何というか……こういう言葉にできない"あたたかみ"が、ライバースが──VTuberが多くの人を魅了する一つの要因なのだろう。
その光景に心がポワポワと温かくなるのと同時に、私は初めて星乃 ルナの"卒業"を強く感じた。
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第百六十八話読了ありがとうございます!
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