#151.夜は空けて
ジリリリリリ
「……うぅ〜ん……はっ」
私は枕元のスマホに手を伸ばして、特有の嫌な感じがするアラーム音を解除すると、ガバッと勢い良く上半身を起こす。
今日は8月26日。ライバースサマーフェスの翌朝である。
私は昨夜のその後を思い出す。
波乱を呼んだ星乃 ルナの卒業を匂わせるライブステージはSNSで一瞬にして拡散され、ライブ終了直後には"星乃ルナ卒業"がトレンド1位に、その他のトレンドもルナ関連のワードで埋め尽くされた。
が、今回の事件は少し特殊性があった。
それは、サマーフェスに参加していて今回の件にネガティブなつぶやきをしている人が極端に少なかったことだ。
これは、決してルナが実は影で嫌われていたとか、皆がルナの卒業を心待ちにしていたとか、そういうことでは無い。
星乃 ルナの最後の舞台。
それを会場で、"生"で観た人は、どうしてもそれについてネガティブな感情を持てないのである。
VTuberファンは"卒業"という単語を聞くと殆ど条件反射でたじろぐものだ。これは、"卒業"という言葉に"辛い""苦しい"といった感情が深く根を張っており、瞬時にそれら全てを芋づる式に想起してしまうからだ。
ルナのリスナーも勿論原理は同じだ。
だが、彼彼女らの思い出した感情は、"辛い""苦しい"という類のものでは無かった。
"楽しい"や"美しい"……ルナの卒業が頭によぎり混乱しつつも、今この瞬間をどうか脳裏に焼き付けたいと考え、ライブにより集中したその時に見た、"完璧"なライブへの素直な気持ち。
そのライブを見た者は、星乃 ルナの美しさと麗しさ、そして、このライブを見ることが出来たことによる猛烈な幸福感が脳裏に焼き付けられた。
これにより、"卒業"という単語を目の前にした時、これまでのネガティブの感情を凌駕するほど強烈なポジティブの感情を想起するようになったのだ。
それにしても……卒業か……
まだ決まったわけでも無いが、これまで一度も炎上した事の無い程几帳面な星乃 ルナが、今更"嘘でした"などとお粗末なことをするわけない。もう卒業は確実だ。
私は別にルナに対して特別な感情を持っている訳でもないし、チカや他のライバースファンのように好意を寄せている訳でも、すぴかやきうい姉のように長く付き合っている訳でもない。
だから、彼女が卒業するといざ言われても、何か強烈な感情を抱くことは無い。
強いて言えば、『昨今のVTuber界でトップクラスに活躍しているVTuber』という定義である"四強"の消失による、新世代への突入の兆しを感じるくらいだろうか。
後は……VTuber 甘姫 あられ として星乃 ルナに勝ることがないまま、彼女と強制的に切り離されることに、少し──
「あられちゃ〜ん!! おっはよぉーーーー!!!!!!」
「ひゃんっ!?」
突然、部屋の扉がドカンと開け放たれ、きうい姉が元気に飛び出してくる。
……はぁ……この会社にはプライバシーというものが存在しないのか……?
「おいおいなんだその声〜! 実にいかがわしいぞぉ〜!」
「……死んで下さい」
「んん〜ストレートな毒舌!!!!」
嘘まみれの涙目をするきうい姉を軽くあしらって、私はパジャマから私服に着替え始める。
まあ、卒業がどうとかより先に、まずアイドルとして彼女に勝たないと。
「うおぉ……! 生着替えぇ〜〜〜!! これは……実にえっっっt──ぐふぉっ!!」
私はきうい姉の顔面にノールックで枕を命中させると、その断末魔を聴きながら優雅に着替えを終わらせた。
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