#150.翼をはためかせ
グループに所属するライバーなら、誰しもが持ち得る選択肢──"卒業"。
正式な発表では無いにしても、卒業を強く想起させただけでこのライブは"卒業ライブ"の肩書きを担うことになる。
となれば、ルナを少しでも知っている人間なら、このライブをより深く、より濃く自分の脳内に刻もうとする。なぜなら、もう二度とステージに立つ姿を見ることが出来なくなるからだ。
つまり、人気投票という制度で競うこの土俵では……これは最も重く、最も強い"切り札"であるということだ。
しかし……普通ここまでするか!?
強い手札というものはそれ相応のリスクをはらむ。
"卒業"なんてカードは、前にも後ろにもリスクだらけ。
まず本当に卒業するなら、リスクどうこう以前に"死"が確定してしまうし、後から撤回するとしても多くの人間の感情や時間、金銭が動くため大大大炎上は避けられない。
辺り一面火の海。どう動こうがその先は地獄。
まず"卒業"なんて手札、切り札として使うものではない。言うなればババ抜きにおけるババだ。今彼女は、そのババを自ら抱え込んでゲームを終わらせようとしている。
……イカれてる……!!!
彼女はVTuber"四強"星乃 ルナという立場を切り捨ててまで、私に勝とうとしているのだ……!
まじで何考えてんだ星乃ルナ!! 勝敗どうこう以前に"死"んだら元も子もないでしょ!!!
そんな私の心の叫びは誰にも聞こえぬままに、ルナは泣きそうになるほど美しい歌声を響かせる。
「白 い 光 のな かに 山 な み は 萌え て」
コメント
:泣泣泣
:これ現実……?
:受け入れられない……
:いやまだ確定じゃないって!!
:こんなん卒業以外ねえだろ泣
:ドッキリ説?w
:ライバースどうなるん?
会場には何とも言えない独特な重苦しい空気が流れている。
が、何とか受け入れた、もしくは星乃 ルナの為に受け入れようとしている人達が彼女のことを想って声を出し始め、次第にそれはルナと観客の大合唱になる。
先程までとは異なって、高品質な画面演出がふんだんに使用されている。羽ばたく白い鳥達がルナの元に飛んできては羽を一枚分け与え、去っていく。その鳥の中には、颯爽と去っていく者や、トボトボと歩いて消えていく者、さらには手紙を置いていく者や、いつまでも立ち去らずルナを見つめ続ける者までもいた。
この鳥は、おそらく星乃 ルナリスナーの象徴だ。自身の体の一部分である"羽"は、その人の中の元気や時間、または金銭──つまりはその人の"人生の一部"を意味している。
私は冒頭の下りを思い出す。
確か、リスナーと通話しているかのような設定だったが……ルナはずっと自身のライバー活動を過去形で話していた。
となれば、あれは卒業してから数年経ったルナが、久しぶりにリスナーとライバー時代の思い出にふけっている場面ということか。
最初からしっかりと伏線を張っていたわけだ。
沢山の鳥達から羽を分け与えてもらい、りっぱな翼を背中に宿したルナは、その翼をはためかせてゆっくりと上昇していく。
「勇 気を 翼 に こ めて 希望 の 風に 乗り」
コメント
:行くなぁ!!!!!
:泣泣泣泣泣
:美しすぎる……泣
:泣泣泣
:悲しい……けどめちゃめちゃ綺麗
「こ の 広い 大 空 に 夢 を 託 して」
会場の全員が団結して声を出し、星乃 ルナの最後の舞台を見送ったこの卒業ライブは、ライバーとリスナーの一種の理想的な形を完成させたライブとして、VTuber界で長く語り継がれる"伝説"となった。
……はずであった。
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