#137.アンクルはブレイクする
私はまるでサッカーのフェイント動作のように停止していた足を急速に動かして、きうい姉をその場に置き去りにする。
「あっ……ちょっ──きゃ!」
私の動きに喰らいつこうと彼女は強引に前進する。が、上手く足を出すことが出来ず、その場に尻もちを着いてしまった。
アンクルブレイク。
主にバスケットボールで使用される技能の一つだ。
その名の通り、オフェンス側が緩急や振れ幅の大きいドリブルを行うことで、ディフェンス側の足首がもつれ、倒れてしまうというものである。
だが、この技は狙って出来る程簡単なものでは無い。この技を成功させる為には、アンクルブレイクの必要十分条件である"重心のズレ"を成立させねばならないからである。
重心とは本来、体の動きに付き従うものであり、身体の物理的バランスを保つのに適切な位置で存在している。
だが、それは精神的予備動作──つまり、この方向に進みたい、といった、未だ行動フェーズに移行していない意志フェーズのものについては一切干渉を許さない。
その為、自身の重心ととんでもなくかけ離れた強さの意志や方向の意志が生まれた時、そこに重心のズレが生じるのだ。
そうなれば、脳内の想定と実際の身体には大きな乖離が生まれ、少し動こうとするだけでバランスを崩しコケてしまう。
と、一応言葉で説明してみたが、このズレを起こすことは机上で語るよりも遥かに難しい。だからこそ、狙って起こすというのは人智を超えた話なのである。
しかし、それはあくまでコート上の話。そこで私はとある条件を駆使したのだ。
着ぐるみ!!
通常よりも重く、動きづらく、視界が狭くなる何とも頼りない装備!!
頭部の重量が大きいことからそもそもの重心が高い位置に移動しており、何のトラップを仕掛けておらずとも危うくコケそうになる不安定な状態だ。
そこにこの重心誘導技術を使ってみれば、コケさせるのも難しいことではないのである!!
「騙したの!? ひどいよあられちゃん!!」
道半ばで倒れたまま情けなくそう叫ぶきうい姉の方を勝ち誇った目で見物しながら、私は足を更に速く動かす。
闘いとは勝者と敗者が必ず生じる残酷なもの。
自分が勝者になる為には使えるものを全て利用して相手を喰らう必要があり、自分が敗者にならない為には何事にも警戒し、全てのリスクを想定して防衛する必要があるのだ。
それが出来ない限りは一人前とは言えない。
ましてやきうい姉なんて、自分で言い出した事をまんまと利用され、挙句の果てに負け犬の遠吠えじみたことをしている……あぁ情けない。
んよしっ、これで邪魔者はいなくなったし、メテオ戦での苛立ちも良い感じに発散出来た。
さっ! 焼きそばパン売り場まであと少し! ここからはノンストップで走りきるだけ──キャ!!
ドンゴロゴッルァーン!!!
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