#136.うざい煽りを利用する
「うおりぁあああああああ!!!!」
猛スピードで近づいてくるその雄叫びに、私は逃げるように速度を上げる。が、きうい姉も意地で私の隣まで追いつき、お互いに並んだ状態でしばし場面は硬直する。
「うおおぉあられちゃあんんさっきぶりだねぇぇぇ〜!!!!」
「よく復活できましたねぇ! 出来ることなら投獄されてて欲しかったですけど!」
「うぇ〜い、いつにも増して当たり強いねぇ〜。何かあった〜? 話聞こうかぁ〜ん?」
「チッ、クソアル中BBAが……」
「うおぉーいライン越えだぞぉーいっ!! まだアラサーにもなってないっつーの!!」
おっと、いけないいけない。きうい姉の煽りが鬱陶し過ぎて、私の数多くある長所の1つ、アンガーマネジメントを忘れるところだった。
「焼きそばパン残り2個でーーす!!!」
まずい、これでは本当に何の成果も得られなくなってしまう!
「あられちゃん、私達一緒にゴールしようねぇ〜ニヤニヤ」
出た! マラソン大会の常套句&信用してはいけない言葉ランキング第1位!!
恐らくからかいか煽りで言っているのだろう。全く、私がアンガーマネジメントを長所としていなかったらどうなっていた事やら……ん? いや、ちょっと待て。この煽り、何かに利用できそうだ。
「いいですよ。一緒にゴールしましょう」
私がすましてそう返答すると、きうい姉は堪らず驚きの声を出す。
「あられちゃん……私が言うのもアレだけど、あんまり人を信用しすぎちゃだめだよ……?」
「大丈夫です。誰にでもって訳じゃありません。きうい先輩のこと、信じてますから」
「うぐっ!?」
きうい姉は喉に何か詰まったような声でげほげほとむせる。あらあら、一体何をそんなに動揺しているのかしら。
まあ、こんな可愛い後輩に"頼れる先輩キラキラァ"とヨイショしてもらって、散々自身が煽った事に対して罪悪感を感じないはずがないのだけど。
きうい姉のその腐りきった性根、甘姫 あられの純粋無垢ハートで叩き直してやろう!
「この際だから、言っておきたいんですけど……きうい先輩のこと、実は結構尊敬していて」
「えっ!? 急に何を!!」
「最初は、ブットンでる人だなって思ってたんですけど……一緒に配信したり、ユニットを組んだりして……やっぱりこの人はすごいって思えるようになって」
「ちょ、ちょっと……唐突なデレ期は効くからやめて──」
「だから……」
きうい姉はどうやら気づいていないらしい。
私が走る速度を落としていること。
そして、それに並走しているきうい姉も、無意識下で減速させられている、ということを。
「だから……先輩だったら裏切っても許してくれますよね♡」
「あられちゃん! 私をそんなに褒めても何も出な……え゛?」
私はここであえて急ブレーキをかける。
ピタッと停止した私に気を引かれ、きうい姉はこちらに顔を向ける。
そう、人間とて所詮動物。
視界から突然に姿を消そうとするものが現れたなら、本能的にそれを目で追ってしまう単純な生き物なのだ。
つまりこの時、彼女の視線は自身より三歩ほど後ろの私に強制的に惹き付けられている。
しかし、だ。彼女の体は慣性の法則で前に進み続けており、右足は更なる一歩を繰り出そうとしている。一方、目線に付随して捻れる上半身は後方を向いており、それによって重心は後ろ側に移動する。
勝負はココ! 一気に加速する!!
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