#132.着ぐるみは全力で走る
邪魔者(きうい姉)が消えたのは良いとして、私もそろそろ焼きそばパンの元へ向かわねばならない。
確か、焼きそばパンが販売されるブースはここから少し遠い所だ。なるべく急ぎたい。
……まあ、幾ら人気と言えど売り切れるまでに数時間はかかるだろうし、何らかのアクシデントさえなければ余裕で購入出来るに違いない。
まさか、何らかのアクシデントが起こるなんてことは流石に無いだろうから、会場の雰囲気を楽しみながらゆっくりと向かうことにしよう。
流石に無いだろうから。
「ライバースゴールデン焼きそばパン、残り10個でーす!!」
ぬわああああぁぁぁっっ!!!
スタッフのその言葉と鳴り響くジングルベルの音を微かに耳に入れながら、私は未だ豆粒ほどの大きさの焼きそばパン売り場に向かって全力疾走する。
現在時刻は13時04分。
私が出陣してから約2時間も経過している。
ここまで遅延した訳だが、その前にこれから話すことは決して悪口では無いのと、私自身は本当にありがたく思っているというのを念頭に置いてから、聞いて頂きたい。
……んんリスナー邪魔っ!!!
いや違うの! 決して悪口ではないし、私のことを快く受け入れてくれるライバースファンの人達や、わざわざ足を運んでくれたあられリスナーの皆には、本当に有難く感じているわ!! ……でも邪魔! 邪魔なものは邪魔なの!!
流石の私でも三歩歩く度に握手やら記念撮影やらを求められてしまうと……不満の一つや二つ出てしまうというものだ。
気がつけば刻々と時間は進み……今や心の中で怪物のような声を上げて全力疾走しているこの有様である。
「ん? なんか着ぐるみめっちゃ走ってね?」
「何かのイベントか?」
周囲のザワつく声が聞こえるが、今はそれに耳を塞いで恥も外聞もなく走り続ける。
……ってか、着ぐるみ走りづらいし暑いし……何の拷問よ、コレ!!
「おい! なんか前にも走ってる着ぐるみがいるぞ!?」
ん!?
その発言を耳にして直ぐに着ぐるみの目の穴から外を注意深く覗くと、前方で走る2体の着ぐるみが確かに見える。片方は鎧の衣装を身にまといながら走っており、もう片方はサイズが小さくて跳ねるようにして走っていた。
少し速度を上げて彼女らに接近してみると、ガサゴソと揺れる着ぐるみの中から特徴的な掛け声が聞こえた。
「ハッハッハッハッハー!!!」
「なのっ! なのっ! なのっ! なのっ!」
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