#10.5.チカ様は知っている
「ただいまー……」
「お帰りなさいませ、チカ様」
入学式から帰ってきた私は召使いに鞄を手渡し、一緒に自分の部屋に向かう。
「お母さんは?」
「ベトナムからオンラインで入学式を御覧なさいました。とても喜んでいらっしゃいましたよ」
「ふーん……」
私の両親は多忙で常に世界中を飛び回っており、顔を見られるのは年に数回。けれど、しっかり愛情を持って育てられたので不満はない! 自慢の親!
やっと自分の部屋の前に到着すると、礼を言い鞄を引き取って扉を開ける。
「夕食には和食系の物を考えておりますが、何か希望は御座いますか?」
「メンチカツ! メンチカツ食べたい!」
「駄目です。メンチカツはこの前昼食にお出ししました。健康に良い料理をシェフに作ってもらいましょう」
「決まってるなら聞くなやいっ!」
たとえ両親がお金持ちで家がお屋敷で専属の召使いが居ても、毎食好きな料理を……とはいかない。
なんてそんなご飯のことはどうでも良くて!
召使いの扉を閉める音とほぼ同時に、私は着慣れない制服のままベッドに飛び乗りスマホで動画配信サイトを開く。
甘姫あられちゃん……初配信の時に偶々発見してから、もうそれは可愛くて今絶賛どハマり中のVTuber。なんだけど……
「あれ絶対あまちゃんだよねーっ!」
本人は声を作っているつもりかもしれないけど正直バレバレというか……まあ確かに一見は分からないかもしれないけど、よくよく聞けば気づかないこともないというか……!
それに名前!
甘姫あられって、どう考えても霰姫 天を後ろから読んだ感じでしょ!
一応私も中学の頃は学年2位だったしバカではないのだから、それくらい気づくってもんよ!
まあでも、本人が隠したがってるなら無理に認めさせることでもない。結構繊細な話だし、私は影で見守ることにしよう。
それにしても……あのVTuberなんて興味無いですよー感満載なあまちゃんがまさか、自分で活動するほどにハマっていたとは……! これも私の布教のおかげー!?
それに……案外ぽんこつなとこあるんだなー、あまちゃん! ちょっと親近感!
こうして私は、今日も鼻歌交じりにVTuberの配信を見漁るのでした。
「へっくちゅっ!!」
コメント
:くしゃみ助かる
:助かる
:へっくちゅ良き
:助かる〜
:tskr
:かわいいー




