#121.私はアイドル
声が……出ない……!
なんで、どうして……!!! これじゃ何も変わってない……結局私は肝心なところで何も出来なくて、皆の足を引っ張って、迷惑かけて──って!!!
「う゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
「!? すぴすぴ、どしたの〜!?」
コメント
:うお!!
:びっくりした!!
:!?
:!?
:急に吠えるやんw
:咆哮?
:どした急に
:すげぇ声w
:初めて聞いたわwすぴすぴの叫び声www
いつまでこんなことやってるつもりだ! 私!!!!
私は自然と下がっていた視線を、もう一度モニターの方に向ける。
映る観客。聞こえる歓声。陰キャの私には到底似合わないけれど、電脳世界だけの特権だと思って、少し勇気を出してデビュー当時に希望した赤髪……その色に染まるペンライト。
本当に、ライブ会場にいるようで。
本当に、アイドルになったみたいで──いや、私はアイドルなんだ!
ペンライトの赤色が、私に勇気をくれる。
それが私を指すのか、それともきうい姉を指すのか……そんなこと今はどうだっていい。この中の1人でも、私を"推し"てくれる人がいるのなら……私は。
すぅー……はぁー……
「ねぇおかあさん! いいでしょ!?」
とある病院の一室で、私はランドセルと黄色い帽子を身につけたまま、母にとある承諾を得ようとしていた。
母はそんな無邪気な娘に対して、優しい表情を向けながらオーバーにため息をつく。
「お母さんは別に良いけど……逆に良いの? 挨拶って、アイドルにとってキャッチコピーみたいなものなのよ?」
「いいの! わたしが"スピカにせい"になるの!!」
「二世? 私の?」
「うん! そしてゆくゆくはアイドルかいをぎゅーじるっ!!」
「あんた、そんな言葉どこで覚えたのよ」
この時の母の言葉はきっと、伝説のアイドルグループのリーダー"星野 スピカ"と比べられたり、実の娘であることが知られて期待の目を向けられることを危惧したものだったのだろう。
当時子供だった私には、そんなこと何一つ分かっていなかった。ただ、母のようになりたかった。
無事承諾が取れてふふんと鼻歌を歌う私に、母は温かい目をする。
「……じゃあ、お母さんもそれまで頑張らないとね!」
「……! うん! わたしがアイドルになったら、ライブぜったいみにきて!! ぜったいだよ!?」
「ふふ……はいはい。その代わり、半端なライブだと説教だからね?」
まだ小学生の私ですら、一緒にステージに立って、とは決して言えなかった。子供も子供なりに分かるものがあったのだ。
あれから十数年……
今の私の姿を見たら、幼い頃の私はきっと失望するだろうな。
小学生の頃に空想していた"将来の夢"とは、かなり形が変わってしまった。画面の中に閉じ込められた、世界一窮屈なアイドル。
私はモニターに映る、すぴかと記載されたうちわを笑顔で振る人の姿が目に入る。
でも、それでも今、こうやって私で笑顔になってくれている人がいる。
私は正真正銘最高のアイドル。
そう、母は言ってくれたのだ。スピカは言ってくれたのだ。
……推しの言葉を信じないオタクなんて、いるかぁ!!!!!!
「……か、輝くあなたの一等星っ!! 火火 すぴかですっ……!!」
コメント
:う……うおぉ!?
:うおおおぉぉぉぉ!!!!
:うぉっほおぉぉ!!!
:うわあぁぁぁ!!!!!!!!
:うおぉぉ!!
:うぃぃ!!
:きたあぁぁぁぁ!!!
誰がなんと言おうと、私がなんと思おうと……私はアイドルなのだ!
***
第百二十一話読了ありがとうございます!
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