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#112.私はアイドルなんかじゃない

 

 昔は、こんなんじゃなかった。


 元々陽気なタイプではなかったけど、それでも人と話すことは出来たし、友達も沢山居た、と思う。


 特に小学校の時は、クラス全員が友達! なんて子供っぽい戯言を本心で言っていた気がする。


 いつから、こんなんになっちゃったんだろ……


 私は、ソファに三角座りしながら、壁にかけられている母の形見のアイドル衣装を焦点の合わないままぼやっと眺める。


 "母が死んだから"では、決してない。

 それを理由にしてはいけない、と、私は本能的に理解している。


 母は、伝説のアイドルグループ、ウォルフ・ライエのリーダーだった。

 母とそのメンバー達は、しがない地下アイドルという立ち位置から破竹の勢いで成り上がって、遂には各所の有名ライブホールを埋めるまでになった。


 そして、地下アイドルの歴史を築いた伝説の一つとして、後世に受け継がれるまで大きくなったのだが……母──リーダー"星野 スピカ"の持病が急激に悪化し、それにより彼女はグループを引退。残されたメンバーは"スピカのいないウォルフ・ライエはウォルフ・ライエじゃない"と名言を残してグループはそのまま解散となった。


 母はその後、入院していた病院で出会った医者と恋に落ちて結婚。

 一時は体が回復して退院し、私を産んだものの、数年後に容態が悪化し再び入院した。


 だから、私の記憶の中の母はいつも病衣を着ていた。


 私の脳内での母のイメージがそんなのだったから、あの瞬間、あの光景にあれだけ胸を打たれたのかもしれない。


 小学生の頃、父にふと見せられたDVD。それは、母がまだ元気だった頃の、ウォルフ・ライエのライブシーンだった。


 笑顔でダンスをこなし、歌声を響かせて、ステージの端から端まで走り回る。

 そんな母にあの瞬間、私は強い憧れを抱いてしまったのだ。


 それから少しして父はシングルファザーになり、私も中学生になった。


 アイドルのオーディションは、大体中学生からが対象になっていることが多い。

 母が亡くなってからも、私は心の憧れを捨てきれず、沢山のオーディションに応募した。

 母譲りの容姿のお陰で、小さなアイドル事務所に声をかけられることもあった。


 が、中学生の間、私はどのオーディションにも受かることは無かった。


 初めてのオーディションを受けて感じたのは……"あれ? 声ってどうやって出すんだっけ?"だった。


 書類審査で落選したことは一度もなかった。

 でも、面接になると、書類では上手く隠れていた私の不完全さが露呈する。

 人の視線を感じると、カメラを向けられると、体が固まって思うように声が出せなくなった。

 初めは凄く丁寧に話しかけてくれたスカウトマンも、その醜態を見ると苦笑いで私を跳ね除けた。


 私の憧れた母の姿が、随分遠くに感じられた。


 それくらいだろうか。アイドルを目指していた私が同級生と話が合うわけもなく……いや、話が合うわけないと勝手に思い込んで、私は人と話そうとしなくなったのだ。


 そして今も、私はあの頃から何も進歩していない。


 高校卒業直前、"アイドル"というワードのつくオーディションをひたすらに応募して唯一受かったのがライバースだったが、デビューから一年経っても、挨拶すらろくに出来ないコミュ障。


 母が亡くなる直前に手渡されたDVDだって、怖くて未だに見ることが出来ずにいる。


 コーチにやる気がないと思われても、仕方がない。


 私は、ライバースの皆や、あられさんのようにはなれない。


 私は、アイドルなんかじゃない。


 ……もう……何もかも、やめちゃおうかな……


 ポコン


 その時、スマホの通知音が鳴った。


***

第百十二話読了ありがとうございます!


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