#109.彼女は失踪する
8月8日。
すぴかと仲良く展示会デートをして親睦を深めたその日から今日17日まで、すぴかは何らいつもと変わりない様子であった。
いや、少し気がかりな所はあったのだが……
あの展示会で得たモノを成果に繋げるべく、私はライブステージに向けてより一層力を入れた。
まず、"導線"の導入。
ライバースは、何よりも演者を優先してくれる。ライブの演出であっても、スタッフが独自に制作するのではなく、出演するライバーの意見や発想を基に制作してくれる。
その為、自分好みにライブを装飾出来る代わりに、手を抜くと何ともみすぼらしいライブになってしまう。
きうい姉とすぴかは、私に一定の信頼を置いてくれているのか、このライブ演出の監修を私に一任してくれた。
そこで、ウォルフ・ライエのライブシーンを探し出し、研究と分析を繰り返すことで、どうにか2次元のライブに落とし込めるよう尽力を尽くした。
ちなみに、超高額なプレミア価格の付いたウォルフ・ライエのライブ映像を数本購入したことで、配信で得た収入の大半が消えてしまったのは……まぁ、ライブを良くするためと思えば安い、もの、だ……
この肉を切らして骨を断つ戦法が功をせいして、"導線"の演出への導入は中々順調に進んでいる。
だが、こちらが順調に進んでいる一方、すぴかの件の解決はあまり成果を果たせていなかった。
以前とのきうい姉との衝突。
あの直後はお互いに気まずい雰囲気があったが、幸いなことにそれは自然と蒸発していき、やがて私の練習時のマインドが変化していった。
それまでは、皆に迷惑をかけないように、皆に追いつこうという心意気で練習してきた。
しかし、それでは幾ら頑張ろうと、きうい姉やすぴかと同じ場所にしか到達出来ない。
きうい姉の言葉でそれをより実感した私は、"迷惑をかけないように"から"自分がこの中で一番目立つように"へとエゴ的心理に変化させた。
これにより、ダンスや歌の上達がはやくなっただけでなく、お互いの空気を読んだ陳腐な集団的パフォーマンスから、己の個性を全面に押し出す貪欲な個人的パフォーマンスに進化を遂げ、それによって技術や経験を超える"感情"という色が出てくるようになった。
パフォーマンスとは、感情のぶつかり合い。己の持つ武器をふんだんに利用して向かい合う戦。
観客を熱くするには、パフォーマーはその10倍熱く燃えていなければならない。
この真理に基づいた練習により、私達のパフォーマンスのクオリティーは当初と比べ物にならないくらい向上した。
が、それによる弊害も、勿論発生した。
私ときうい姉は、初コラボの時に行ったように、己の個性を全面に押し出し、相手を喰らう勢いでパフォーマンスを行うことが出来る、むしろその方式を得意とするタイプの演者である。
が、無論その方式に慣れていない演者もいるわけで。
すぴかにとっては、このやり方こそ一番に苦手なやり方だった。
それにより、私ときうい姉の急速な成長に追いつけなかったすぴかは、ユニットの中で一番の技巧派というポジションから、ユニットのミスを誘発する足枷のようなポジションにまで下落してしまった。
そして昨日。
あまりにもミスを連発するすぴかに、コーチは居残り練習を命じた。
そして、彼女は失踪。
恐らくすぴかが姿を消した原因は、この居残り練習であろう。
隣で腕を組むきうい姉は、少し後ろめたい表情をするコーチを前に口を開いた。
「ちょっと話を聞いてもいいかな? コーチ」
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