#105,勝算が見える
……あっ、いた!
トイレの前に設置されている、ガラガラの休憩スペース。そこに1人、浮かない顔でベンチに座るすぴかの姿を発見すると、私はキョロキョロと左右に振っていた首をそこに固定して、彼女に気づかれないようにそっと近づいた。
「……すぴかさん」
「うぇあわぁっ!!」
右耳に接近して脅かしてあげると、彼女は期待通りの反応で情けない悲鳴を上げてくれた。
「……みぞれちゃん……もう、びっくりしました……」
「えへへ、朝のやりかえしです。あと、いまはまわりに誰もいないので、あられでいいですよー」
私はそう話しながら、彼女の隣に腰掛ける。
「さっき、ウォルフ・ライエのライブ映像をみてたんです」
「……どうでした……?」
「なかなかよかったです。なにかコツをつかめたような気がしてます」
すぴかに、私とルナの対決については話していない。変に気を遣わせたり、緊張させたくないからである。
「……そうですか……良かったです!」
私のウォルフ・ライエへの肯定的な評価に、すぴかは笑顔で応える。
やっぱり、この子は相当アイドルが好きなのだな。
「すぴかさんは、本当にアイドルがすきなんですね」
「……ま、まあ……私にとってアイドルは……親みたいなもの、ですから……子供の頃から、ずっと……アイドルになりたい、と思ってましたし……」
「へぇー、そんなに! じゃあ、ライバースは天職ですね!」
私は先程のような笑顔の応答を期待する。が、実際の彼女のそれは、私の期待とは少し異なった、影のある苦笑いだった。
怪訝に思う私に対して、彼女は俯いて言葉を放つ。
「……ライバースは、アイドルなんかじゃないです。あれは……所詮VTuberです……」
"所詮"という言い方に少し引っかかるが、私はひとまず無言で話を聞く。
「アイドルは……実際にステージに立って歌って踊って……初めてアイドルなんです……アイドルは、ライブステージの上で1番、熱く輝くんです……ライバースがやっているのは、ただのゴッコ遊びで──」
「すぴかさん、それ以上はライバースの人達や応援してくれてる人達に失礼です。もちろん、私にも」
「あっ! すみません……そういうつもりじゃなくて……」
「いえ、わかってくれたらいいですからー」
私は不意に尖ってしまった口調を和らげて修正する。
恐らく、先程の言葉がすぴかの本音だ。ようやく彼女のことが掴めてきた。私は俯くすぴかと裏腹に、ヨシヨシと手をぐっと握る。
すぴかはきっと、アイドルへの憧れが強すぎるのだ。
まだ具体的には良く分からないが、彼女が触れ、憧れ、目指したアイドル像のハードルが高すぎるあまり、彼女自身の自己肯定感が極端に低くなっているとかそんなところだろう。
これはかなりの進捗だ。もし今日得た知識を存分に活かすことが出来れば──私はウォルフ・ライエから伝授された秘策を駆使! すぴかは覚醒することであの超絶オーラで観客を魅了! その結果、見事ルナとの勝負に白星をあげる!!!
見える……見えるわ……勝利の道筋!!!
「……あられさん、ほんとすみません……こんなのがメンバーだなんて……呆れちゃいますよね……」
「いやいや! そんなことないですよ! すぴかさん、歌もダンスもダントツでうまいですし!」
以前調査として過去のライバースのライブシーンを見たのだが、練習でのすぴかの動きはメンバーの誰よりも上手であった。ただし、ライブ時のすぴかは緊張のせいか動きが乱れて、あまり凄みを感じなかったが。
が、それを直接伝えては喧嘩を売っているのと同じなので、私はこの重苦しくなった雰囲気を改善するよう話題を振る。
「そういえば、すぴかさんはウォルフ・ライエで推しとかいたりするんですか?」
「……あ、えと……はい……リーダーの星野 スピカって人が……推し、かな……」
「……え? それって同じ名前──」
「はい、どうも! 本日は地下アイドルの展示会"アイドルのキセキ"にやってきましたぁ〜!!」
私の返答は、突然姿を現した取材陣の声にかき消された。
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