#99.一夜で過つ
「……んー……」
顔に直撃する暖かい光に、私は無意識に声を漏らす。先刻まで真っ黒だった瞼の裏が僅かにオレンジ色を帯びていて、そこでようやく朝が来たことに気づいた。
微かに聞こえる鳥のさえずり。蝉の鳴き声。温かい日差し。冷涼な風。私は目を瞑ったまま、その心地よい感じに体を預ける。
季節は夏真っ只中であるが、そのどこからか流れてきた風のお陰か、ちっとも暑くない。
それどころか、少し肌寒いような……いや、意外と結構……というかかなり……
「寒っ!!」
その寒さに耐え切れず、私は勢い良く体を起こした。
寝起きでぼやけた目を高速瞬きで何とか解消して辺りを見てみると、その光景に思わず笑ってしまう。
ぐちゃぐちゃの敷き布団に、理不尽にも部屋の隅に追いやられてしまった2枚の掛け布団。床に寝転がった裸のユリ神と、その周囲に脱ぎ捨てられた衣服達。
……全く、相変わらずのだらしなさだ。
私は呆れながら腕を組む。と、そこで私は違和感を覚えた。
ん? なんだろうこの妙な密着感……まるで肌と肌がくっついているような……
私は首を傾げつつ、ゆっくりと真下に視線を下ろす。
するとそこには、指先からお腹周りまで肌色に統一された、私の半身があった。
……え?
「いやあぁぁぁあぁあ!!!!!」
「うえっ!? なになに!?」
私の悲鳴に驚いてユリ神が飛び起きるが、そんなことは一切気にとめずに私はいち早く近くのシャツに手を伸ばし、それにくるまるようにして即座に体を隠す。
なんで私まで裸に!? ……まさか、一夜の過ちを!?
目を擦りながらポカンとしているユリ神に、私は疑いの目を向ける。その数秒後にようやく事態を把握したらしいユリ神は、何故か焦ることなくニヤっと笑った。
「昨日は、気持ちよかったね……♡」
……!!!!!!!!!!!!!!
「いぃぃやああぁぁあぁぁぁ!!!!!!」
私のあまりにも大きな悲鳴に、鳥達はバサバサと音を立てて飛んでいったのだった。
「さっきはごめんね、あんな冗談言っちゃって〜」
「いえいえ、あられもおどろきすぎました……」
私はブラウスのボタンをかけ終えると、服を着ている安心感にほっと一息ついて、なぜか未だ服を着ていないユリ神に顔を向ける。
彼女の昨晩についての話によると、あの黒いスイッチは配信音をミュートにする機材だったらしい。いざという時に対処出来るよう、配信開始前にこっそりとセッティングしてくれていたそうだ。それから午前1時頃に二人共が寝落ちしたことで配信は無事何事もなく終了し、先程スマホを見たらチカの寝言も配信には乗っていないとスタッフから連絡があった、とのこと。
ちなみに私達が裸だったのは、ユリ神の"人の衣服を見境なく取り払ってしまう"という最悪の寝相によるものだった。一体どういう原理でそんな寝相が生じるのか……
まあ、それはさておきだ。私はまず、しっかりとユリ神に感謝の念を伝えなければいけない。
「おおいなる神・ユリ神様! このたびはおたすけいただき、ありがとうございました!」
「え、その言い回しなに? ……んまあ、寝落ち雑談はただでさえ事故しやすいからね。あられちゃん相手なら、なおさら対策して当然だよー。でも、さすがにあられちゃんの友達とコラボすることになるとは思わなかったけど……」
「あ、あはは……すみません……」
ユリ神の口ぶりからして、私の"ぽんこつ"が演技であることはバレていないようだ。おおかた、"ぽんこつ"から"勉強ができるぽんこつ"に認識が変わった位か。それとも名前と高校以外はもはやチカの戯言だとみなしているのか。
まあ、そんなことはいっそどうでもいいか。人生終わらなくて済んだんだし、そのくらいかすり傷にもならない。
「それはさておき、あられちゃんのあられもない姿が見れたことには感謝かなー」
「えぇっ!? そ、それはきおくから抹消してくださいっ!」
「個人的には怯えて布にくるまってた所が1番良かったかな〜。ほら、隠れてる方がエッチ、的な?」
「……ぐうぅ……きもちわるい……」
「あられちゃあん、私にきもちわるいはご褒美だぞ〜?」
「ひぇぇ……〇ねばいいのに……」
「急に火力高いな!? ……あっ、そうだ」
ふと何かを思い出したらしいユリ神は、何食わぬ顔で自分の谷間に手を突っ込むと、なにやら2枚の短冊のようなものを取り出した。
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