#98.私は合掌を捧げる
いやいやいや、"ぎゃぴっ"なんて言っている場合じゃない!!!
まずいまずいまずいまずい!
というか、こんなことあるの!? 言っちゃいけないことを見事に全部言い当てられたんだけど!?
いや、そうやって現実逃避しても状況は変わらない。頭を回転させるのだ、私!
こういうことは何も初めてでは無い。
活動をしていく上で、何度も遭遇したピンチである。まあ、ここまでまずいのは初めてだが……
取り敢えず、今の状況を整理してみる。今、配信に乗ってしまった情報は、私の本名と高校名、そして天才であること。私はここからどうにか誤魔化す方法を考えなければならない。
……うん、無理じゃない?
というか、ぽんこつでは無いことがバレたことよりも、本名と高校がバレたことの方がよっぽど問題なのだが!?
私の登録者数は今や40万人。普通に配信活動1本だけで余裕のある暮らしが出来るほどの数。影響力がないとは流石に言いきれない。
となると、私のことを知っている同級生も当然いるだろう。何せ当時5万人前後のざえのファンすらいたのだ。この甘姫 あられを知る者などいない訳がない。
となると、その同級生によって私は盗撮され、ネットに顔写真を拡散され、そのリークで天才であることに確証が出来て、ファンは激怒して高校に殴り込み、最後は家をストーキングされて最悪の場合グサッと……ダメだ、頭がクラクラしてきた。
というか、ここまでまどろっこしい手順を追わなくても、私の名前を知られた時点でかなり詰んでいる。
私はこれまで様々なコンクールで受賞してきたので、検索をかけるだけで数々の個人情報が芋づる式に出てくるのだ。
くっ……これは本当にまずいやつかもしれない。何一つ対抗策が思い浮かばない。
というか今までは、もし"ぽんこつ"が演技だとバレてもいざとなったらアカウントを消して逃亡すれば良い、というスタンスで活動してきたのだが、今回は現実世界の情報がバレている為逃げることが出来ない。
VTuberのリスク回避という利点が全部パーである。
……もしかして、人生終わった?
突然、私の心は虚無に襲われる。
ふとした事で、私の人生が棒に振られてしまったという吐き気のしそうな事実。それに理解が追いついたことで湧き上がってくる苛立ち、喪失感。
……笑えない、のだが。
「あられちゃん、大丈夫だよ」
あまりの絶望に滲み出そうになった涙が、ユリの穏やかな一声で辛うじて引き戻された。
「大丈夫って……どういうことですか?」
私は極力期待しないように、思わず宿るわずかな期待を意識しないように努めて、彼女が私に見せるスマホの画面に目を向ける。ふとして、私は画面に映し出されているのがコメント欄だということに気づく。どうやら私達の現在配信中の枠のコメントのようだ。
私は悪い妄想によって少し顔を背けられながらも、薄目になってリスナーの反応を目に入れる。
コメント
:あれ?
:ミュート?
:音ないなったー
:ん?
:ついに俺の鼓膜が敗れたのか……
……聞こえていない!? どうして!?
奇跡的タイミングでの機材の不調や、有能スタッフの対応など、その理由を頭に浮かべるが、何だかしっくり来ない。
そして、ユリのスマホを持つ方の手とは反対の側──PCにコードが伸びた黒色のスイッチを持った手を見て、ようやく理解した。
「……誰にでも隠し事の1つや2つくらいあるから、ね?」
そう言ってフフっと笑うユリ──いや、ユリ神に、私は無言のまま合掌を捧げた。
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