告白の返事
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リエート卿と続けざまに四曲ほど踊り、私は休憩のため応接室を訪れた。
グレンジャー公爵家とクライン公爵家の直系だからか、かなりいい部屋で設備も充実している。
侍従も親切で、直ぐにお茶やお菓子を用意してくれた。
『ゆっくりとお寛ぎください』と言い残して退室する彼らを見送り、私はリエート卿に促されるまま腰を下ろす。
すると、彼も向かい側のソファへ腰掛けた。
「はぁ〜!さすがにちょっと疲れたなぁ。ダンス自体は別にどうってことねぇーけど、色んな人にジロジロ見られんのは慣れねぇ」
『しかも、相手は各国の権力者だし』とボヤき、リエート卿はここぞとばかりに肩の力を抜く。
相当気を張っていたのか、まるで溶けるようにソファへ身を預けた。
すっかりリラックスしている彼を前に、私は居住まいを正す。
「あの、リエート卿。ちょっとお話があるんですが」
「ん?なんだ?」
天井に向けていた視線をこちらに戻し、リエート卿はコテリと首を傾げた。
疲れていてもちゃんと話を聞こうとしてくれる彼に、私はスッと目を細める。
と同時に、少しばかり表情を引き締めた。
「────告白のお返事をしてもよろしいでしょうか?」
「……えっ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まるリエート卿は、完全に呆気に取られている。
瞬きすらせずこちらを凝視する彼の前で、私は『やっぱり、急すぎたかしら?』と後悔した。
が、もう後の祭りである。
「こんな時に言うのも何かと思いましたが、早い方が良いかと思って……ダメでしょうか?」
『ダメな場合はまた日を改めます』と言うと、リエート卿は勢いよく身を乗り出した。
「いや、全然ダメじゃない!急で驚いたけど、その……ちゃんとアカリの気持ちを知りたいから!」
真っ直ぐにこちらを見据え、リエート卿は僅かに表情を強ばらせる。
失恋の可能性を考えて、少し不安になっているのだろう。
でも、サンストーンの瞳には期待も滲んでいて……両想いの可能性を強く望んでいるようだった。
ゴクリと喉を鳴らす彼の前で、私はふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。そう言っていただけて、とても嬉しいです」
そう言って少し腰を浮かせると、私は両手でリエート卿の頬を包み込んだ。
途端に赤面する彼を前に、私は
「単刀直入に申し上げますね────私もリエート卿のことが、好きです」
と、想いを告げた。
彼のことを見習うように、飾らない言葉で真っ直ぐと。
「横に並んで歩いてくれる貴方が、同じ目線に立って物事を考えてくれる貴方が、幸せや苦しみを分け合ってくれる貴方が大好きです。心から、愛しています」
言葉にする度溢れてくる想いを笑顔に変え、私は精一杯の愛を伝えた。
すると、リエート卿は大きく目を見開き────何かを堪えるように唇を噛み締める。
が、堪え切れなかったようで目に涙を滲ませた。
「俺も……俺も好きだ。愛している」
一語一語しっかりと発音して返し、リエート卿は私の手に自身の手を重ねる。
と同時に、ギューッと強く握り締める。
まるで、『離さない』とでも言うように。
「両想いとか、夢みてぇ……」
「ふふっ。大袈裟ですわ」
「いや、そんなことねぇーって。だって、ニクスがライバルだったんだぜ?」
『超不安だった』と零し、リエート卿は手に擦り寄ってきた。
かと思えば、『現実だ……』と呟く。
「ぶっちゃけ俺さ、一生片想いする覚悟だったんだよ。俺はアカリしか有り得ないし……聖騎士だから、無理に恋愛する必要もなかったしな」
想像よりも大きい愛情を示し、リエート卿はサンストーンの瞳をスッと細めた。
「だから、マジで嬉しい。俺を好きになってくれて、ありがとな」
「こちらこそ」
『お互い様です』と笑うと、リエート卿はサンストーンの瞳に歓喜を滲ませる。
と同時に、私の手を一度引き離した。
『邪魔だったかな?』と思案する私を他所に、彼はテーブルをグルッと回ってこちらまでやってくる。
そして隣に腰を下ろすと、
「もう堂々と横に居ていいんだよな」
と、しみじみ呟いた。
『どれだけ、この場所を欲したことか』と語りながら、リエート卿は私の手を持ち上げる。
「アカリ、本当に好きだ。愛している。俺とずっと一緒に居てくれ」
「はい」
一瞬の躊躇いもなく頷くと、リエート卿は堪らずといった様子で私を抱き締めた。




