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平凡な私でも《ルーシー side》

 ギュッと強く手を握り締め、私は思わず俯いた。

久々に感じる無力感に打ちひしがれながら。


 最近はずっと傍に朱里達が居てくれたから、何でも出来そうな気がしていたけど、私一人じゃ……何も出来ない。

本物のヒロインのような勇気や優しさは、持ち合わせていないんだ。

だから────


「────私はヒロイン(聖女)として、ここに来た訳じゃない。ただの一人の人間として、自分と大切な人達を守るために必要なものを取りに来たの」


 聖なる杖をただの道具や手段として扱い、私は本心を曝け出した。

『なっ……!?』と面食らう聖獣を前に、私は一歩前へ出る。


「平凡で結構。どうせ、私には人々を救うなんて崇高なこと出来ないから」


 野外研修のとき嫌というほど思い知らされた自分の本質を見据え、私は盛大に開き直った。

唖然としている聖獣に詰め寄り、至近距離で青い瞳を見つめる。


「でもね、私にだって意地はあるの。自分の出来ることは精一杯やろう、という意地がね。それで家族や友達の助けになるなら、尚更」


 腰に当てた手を下ろしつつ、私は自信ありげに笑う。


「傍から見れば利己的な女に映るだろうけど、それで構わない。それが私だもん」


 いくら上品に取り繕ったって変わらない自分の(さが)を示し、一歩後ろへ下がった。

呆然とした様子で固まる聖獣を見つめ、手に持ったもの(・・・・・・・)を握り締める。


「悪いけど、どれだけ諦めさせようとしても無駄だから。こっちはもう悩みに悩みまくって、腹を決めているの。今更外野に何を言われたって、揺るがないよ」


「……強情なやつだ」


「そう?身の程を弁えていて、実に謙虚だと思うけど?」


「いや、どこが……」


 ゲンナリしたように溜め息を零し、聖獣は(かぶり)を振る。


「とりあえず、君の気持ちは分かった。じゃあ、こうしよう。僕の与えた試練を突破出来たら、聖なる杖を……」


「────あっ、それならもう持っているから大丈夫」


 先程拝借した白い杖を背中の後ろで振り、私はニッコリと微笑む。

と同時に、全力疾走で来た道を引き返した。


「い、いつの間に……!?」


 ポスポスと自身の胸元を叩き、聖獣は目を白黒させる。

衝撃のあまり固まる白い虎を前に、私は


「そのモフモフに杖を隠しているのはゲームで知ってんのよ、バーーーカ!」


 と、叫んだ。

『な、なんだと!?』と狼狽える聖獣を置いて、私はぐんぐんスピードを上げていく。


 本当はこんな窃盗まがいの真似、したくなかったんだけど……まあ、受け渡しを渋るあっちが悪いよね。

本来の持ち主はヒロイン()なんだし、問題ないでしょう。


 『大体、試練って何よ?』と文句を言いつつ、私は出口を目指す。

────と、ここで後ろからけたたましい足音が聞こえてきた。


「おい!そこ、止まれ!まだ話は終わっていない!というか、こんな展開認めない!」


 物凄い速さで距離を詰めてくる聖獣は、『色々おかしい!』と批判する。

力ずくで杖を取り戻す気である白い虎に、私はニッコリと微笑んだ。


「聖獣はさ、その堅苦しい性格を直した方がいいよ。誰も居ない空間に二十〜三十年ほど閉じ込められば、ちょっとは頭が冷えるんじゃない?」


 杖の先端を聖獣に向け、私は『どう?』と尋ねる。

その途端、あちらは一気に青ざめた。

というのも、このアイテムの効果が────あらゆるものを封印出来る、というものだから。

たとえ、杖を守る存在である聖獣であろうと例外ではない。


 聖なる杖がこっちの手に渡った時点で、貴方は詰んでいるの。

大人しく、諦めたら?


「平凡だろうとなんだろうと、『光の乙女』の所持者である以上、私もこの杖を使える。それは分かっているよね?」


 使い方もゲームを通して既に熟知しているため、抜かりはない。

『久々に転生者チートを使った気分』と浮かれる中、聖獣はピタリと足を止めた。

かと思えば、突然泣き崩れる。


「神よ〜〜〜!何故、彼女のような性格破綻者を聖女にしたのです〜〜〜!?」


 いや、『性格破綻者』って……そりゃあ、歴代の聖女やゲームのヒロインに比べればめちゃくちゃ性格悪いけど、ちょっと言い過ぎじゃない!?

てか、ガチ泣きじゃん!


 『ちょっと、おちょくり過ぎたか?』なんて思いながら、私は一度も足を止めることなく出口まで駆け抜ける。

そして、外で待っていた朱里へ抱きついた。


「ただいま〜!バッチリ、アイテム回収してきたよ〜!」


 手に持った白い杖をブンブン振り回し、私は『ほら、見て見て!』と笑う。

すると、朱里はホッとしたような表情を浮かべ、こちらに手を伸ばした。


「おかえりなさい。ご無事で何よりです」


 そっと私の頬を撫で、朱里は肩から力を抜く。

────と、ここで周辺の警戒に当たっていた男性陣が戻ってきた。


「おっ?もう戻ってきたのか!」


「思ったより、早かったな」


「お疲れ様」


 思い思いの言葉を述べてこちらに来ると、洞窟に目を向ける。

聖獣の泣き声が微かに聞こえるのか、彼らは一様に首を傾げていた。

が、『光の乙女』の所持者じゃないと聖獣の言葉は分からないため、ただの空耳と判断したらしい。

直ぐに興味を無くした。


「さて、そろそろ帰ろうか」


 『長居は無用だ』と言い渡すレーヴェンに、私達は賛同した。

もうすぐ夕暮れということもあり、直ぐに荷物をまとめて城へ向かう。

朱里の転移魔法を用いて。

やっぱりこれが一番早いし、安全だから。

『本当、便利だよね〜』と思いつつ、私達はいつぞやの会議室へ足を運ぶ。


 そこには、もうグレンジャー公爵やノクターン皇帝陛下の姿があり……ピリピリとした空気を放っている。

そりゃあ、そうだ────これから、魔王戦の最終打ち合わせを始めるんだから。

『ニコニコしていられる余裕はないだろう』と考える中、私達はそれぞれ席に着く。

と同時に、ノクターン皇帝陛下が少しばかり身を乗り出した。


「ルーシー嬢、例のものは?」


「こちらに」


 聖なる杖をテーブルの上に置くと、ノクターン皇帝陛下は僅かに眉尻を下げる。


「では、本当にこれで……全て揃ったんだな」


「はい。あとは魔王に戦いを挑み、勝つだけです」


「……そうか」


 じっと杖を見つめ、ノクターン皇帝陛下は複雑な表情を浮かべた。

帝国の主としては喜ぶべきことなんだろうが、レーヴェンの父親としては心配で堪らないのだろう。

それは朱里やニクスの父であるグレンジャー公爵や、リエートの兄であるクライン小公爵も同じだった。

『ついに我が子を戦場へ送り出す時が来たのか』と落胆する彼らを他所に、ノクターン皇帝陛下は一つ深呼吸する。

と同時に、表情を引き締めた。


「────これより、魔王討伐作戦の最終確認を行う」

明日から、二週間〜一ヶ月ほど休載します。

更新を楽しみにしている方が居たら、申し訳ございませんm(_ _)m


本当はこのまま完結まで更新しようと思っていたのですが、『魔王戦の流れ、これでいいのかな?』と迷ってしまい……。

考える時間を(場合によっては、書き直す時間も)いただきたく……。


出来るだけ、早く更新を再開致しますので、少々お待ちいただけますと幸いです。



今後とも、『お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない』をよろしくお願いいたします┏○ペコッ

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 無理なく満足行く作品にしてくださいね〜 次回更新のんびり待ってます~
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